《茶✕学び》茶産地から伝えるお茶の魅力。単発で終わらないお茶セミナーでふえる産地の応援団 【八女茶ソムリエスクール/竹中昌子】

日本茶インストラクター制度が始まって20年以上が経過し、各茶産地でもさまざまなセミナーやワークショップが茶摘み時期に限らず、開催されている。

最近では、各茶産地でも「知覧茶アドバイザー養成講座」、「宇治茶アカデミー」、「さやまちゃ塾」といった連続講座も行われるようになってきた。その背景には、「もっとお茶について知りたい」という、お茶が好きな消費者ニーズの高まりがうかがえる。

そういったトレンドのなかで八女茶ソムリエスクールは、「『八女茶』を美味しく楽しく淹れることができる人材を育成する」ために2022年に開講した。

八女茶ソムリエスクールの興味深い点としては、4つのコース(コンシェルジュ、ジュニアソムリエ、ソムリエ、マスターソムリエ)を育成していく意欲的な点である。「ペットボトルのお茶が基本」となった今、「淹れ方」や「その背景にある魅力」を知ることで変わるお茶の味わいをどのように伝えていくかという点は、お茶の可能性を広げるために欠かせない重要なテーマである。

今回、お茶の魅力を「学び、体験する」分野で活躍される、八女茶ソムリエスクール専任講師、竹中昌子さんにお話を伺った。

竹中昌子(たけなか しょうこ)
【TEA FOREST JAPANESE】代表
福岡市内の和菓子店にて和菓子職人として勤務時、日本茶を学びはじめ、和菓子店を退職とともに【TEA FOREST JAPANESE】日本茶のイベント会社事業をスタート。
NPO 法人日本茶普及協会茶育指導士。一般社団法人日本フードライセンス国際協会和菓子コーディネーターの資格も有し、八女伝統本玉露ブランディングスタッフや NPO 法人日本茶インストラクター協会の福岡県支部理事を兼任。

八女茶ソムリエスクールの立ち上げ。「八女茶の今を楽しむ」イベントがきっかけに

Q:八女茶ソムリエスクールについて教えてください。

八女茶ソムリエスクール

竹中:八女商工会議所が主催となり、江戸末期に建てられた元造り酒屋の建物をリノベーションしました「八女市横町町家交流館」という歴史的建造物のなかで、日本茶の専門家から八女茶の歴史やお茶の効能、お茶の美味しい淹れ方などを学ぶスクールとなっています。

八女茶ソムリエスクールのなかで「コンシェルジュコース」は、1番最初に誕生したコースで、八女茶をおいしく・楽しく学び、八女茶ファンの輪を広げるということを目的としております。1日完結の内容ですので、観光を含めて八女茶と触れ合う1日をお過ごし頂いています。

コース内容は、午前中は八女茶の歴史や効能、種類や淹れ方などを学ぶ「座学の部」。そして午後から八女茶をワイングラスで楽しんで頂く「呈茶の部」といたしまして、6種類の色々な淹れ方の八女茶を茶会風に味わって頂くという内容になっています。

八女茶ソムリエスクール

もう一つの「ジュニアソムリエコース」は、もうワンランク上のコースとなっております。八女茶の特徴やおいしさをより深く理解し、実践的な経験を体験して頂く内容となっています。

例えば、八女茶発祥の地といわれる「八女市黒木町の霊巌寺」に出向きお話をお聞きしたり、茶畑での茶摘み体験や、茶工場を見学して製造過程を学んで頂いたりと、年間時期を変えながら合計6回八女市にお越し頂き、実践的な講習を受けて頂いています。

今後、さらにワンランク上の「八女茶ソムリエコース」がスタートする予定ですが、今は「コンシェルジュコース」と「ジュニアソムリエコース」の2コースで皆様にしっかりと八女茶の魅力を学んで頂いています。

Q:八女茶ソムリエスクールは竹中さんなくては始まらなかったと思います。スクールを始めたきっかけを教えてください。

竹中:「八女茶ソムリエスクール」は2022年からスタートしましたが、それより前に“八女の観光に繋がるもの”をという、ご依頼のもと「八女茶の今を楽しむ」ことを目的とし、毎月1時間の呈茶イベントを計8回開催しています。

八女茶ソムリエスクールの様子

八女市は福岡県の一番端といいますか、ちょっと車がないと不便な場所なんです。

電車もバスもありますが、本数が少なくて。「お茶好きの方が、新茶の時期に行く場所」みたいな感じではあったんですね。そこで、週末やお仕事の休みのときに「八女に行こっか」と八女に来てもらえるきっかけになるようなイベントをしてほしいというご依頼を頂戴しまして。

八女の茶畑八女の茶畑
お茶は、4月〜5月の新茶時期だけじゃなく、どんどん味わいを変化させていくものなんです。

その変化する味わいを体感してもらえるイベントということで、1ヶ月ごとに6種類〜7種類ですかね、毎月お茶を変えて「その月の八女茶を楽しむ」というイベントを開催しています。

そのイベントも始めてから4〜5年になりますが、そんなときに八女茶ソムリエスクールの立ち上げのきっかけになった当時の八女商工会議所会頭に「何かこういうふうに八女茶を発信していったら、観光にももちろん繋がるし、八女茶の消費にも必ず繋がるはずだ」と言っていただいて。スクールを作ったきっかけの1つになっています。

Q:八女茶ソムリエスクールと個人のミッションをお聞かせください。

竹中:事業としては、八女茶に興味を持ち「自分も学び、そこから発展したい」と考える方々の受け皿として有り続けることが必要です。

竹中さんお茶を淹れる竹中さん
有り続けるには、継続可能な運営状態にないといけませんので、経営についてはまだまだ課題が山積みです。

個人としては、その「八女茶に興味を持ってもらえる人」を増やせるように、私自身がより学び・深め・新たに生み出しながら、多方向から様々な方達のアンテナにヒットするものをご提供出来るよう発信していきたいと努めています。

Q:竹中さんにとって日本茶とはどんな存在ですか。

竹中:自分の好奇心の中心にあるものです。

必ず現地に行く。作り手が淹れてくれるお茶の味を覚えてから広めたい

Q:福岡にお住まいだったからこそ「八女茶」をお好きになったんですか?

旅全国のお茶を巡っていた時に撮影したという風景
竹中:『茶柱倶楽部』っていう漫画ってご存じですか?

その漫画の主人公・すずちゃんがお茶のキッチンカーで全国の茶畑をめぐるっていうシーンがあるんですが、私は全国の産地を知らなかったので、すずちゃんが行った産地を北から南まで全部めぐってみようってなって。

お客様も福岡の方だけではなく、全国からいらっしゃるので、全ての県のお茶の魅力をお伝えするのがインストラクターの仕事だと思っています。

全部の県のお茶の魅力をお伝えできるように産地に行って、そこで生産者の方が「こういう味のお茶だよ」と淹れてくださるお茶の味をちゃんと覚えてお伝えできるようにしています。まず自分がご紹介する必要のあるお茶は、必ず現地に行くことを今でも大切にしています。

Q:日本茶を取り扱う難しさがあればお聞かせください。

竹中:無発酵である緑茶は酸化が常につきまといます。袋に入った状態の茶葉も、淹れたあとのお茶も「ベストな状態」を提供することには神経をとても使っているところですし、そこに難しさも感じています。

「学び」の視点から、日本茶の未来を考える

Q:八女茶ソムリエコースを通して実現させたい将来像はありますか?

竹中:日本では「おもてなし」の心からお茶は無料でだしてもらえるもの……という考えがいまだに残っています。

価値あるものを価値あるものとして当たり前に認識してもらえる消費者を増やす。そういったことを伝えられる人材を育てる。スクールという学びの場から、この様な成果にもっていくことで、生産現場から販売に至るまでの茶業界を確固たるものにしたいと考えます。

Q:これからの茶業界の未来はどのようになっていくと思いますか?

竹中:世界に比べると日本はとても小さな国ですので、世界の茶葉生産量と比べるとまったく比べ物になりません。

その中で高品質な茶葉は一定層に必ず需要があるので品質重視のお茶づくりが残っていくのかなと思っています。

一方で日常のお茶として日々の需要に応えるお茶も必要ですし、地方に残っている特徴ある地方番茶も後世に残り続ける為に、情報社会と言われる現代ですので“知ってもらう”きっかけを生み続けていきたいと思います。

八女茶ソムリエコース

Q:竹中さんからみて、茶業界でおもしろい取り組みをされている方はいらっしゃいますか?

竹中:BARですのでアルコールベースですが、福岡県福岡市で髙橋 宏明さんが営む「Japanese Salon 雫」様は茶葉の特徴を最大限いかしたカクテルをつくりだされているのが素晴らしいと感じています。

日本茶は嗜好性の飲み物のみもののなかでも風味がとても繊細ですので、アレンジティーをつくるのがとても難しい部類だと思います。

海外の抹茶ブームや、地産地消の国内動向からしても「日本茶」を扱う店舗は増えてきていると感じていますが、茶の魅力を全面に引き出すのは難しいのが課題です。

Q:八女茶ソムリエスクールで今後、竹中さんが取り組んでいこうと思っていることをお聞かせください。

竹中:クライアント様・対象者様からの反応をみると十分価値があるものと捉えていただけていると思いますが、一方で興味がある方にしか情報が届いていないことも痛感しております。

また茶業界に限ったことではないですが、個人事業主の集まりが多い業種ですので連携の難しさも否めないと思っています。

八女茶ソムリエスクール八女茶ソムリエスクールで講義をする竹中さん
自社の今後の課題としては、個人単位で出来る規模には限りがありますので、それをいかにビジネスとして継続しつつ拡大していけるか邁進中です。

All photos by TEA FOREST JAPANESE