《茶✕パッケージ》見た目はタバコ、中身はお茶。世界を茶化すちゃばこがお茶のすそ野を広げる理由【ショータイム/森川翔太】

茶葉を保存・携帯するには、パッケージ(容器)が必要だ。 江戸時代、茶葉は「茶壺」と呼ばれる陶器の壺で保存されていた。そして明治になると亜鉛板を内張りした木箱「茶箱」が登場し、その後、金属製の「茶缶」へと移り、現在は、アルミ薄膜と樹脂シートが一体となった「茶袋」に茶葉は保存されるようになった。 茶袋は、さまざまな形状に加工でき、全面に色鮮やかな印刷も可能だ。 そんなお茶のパッケージを使って、世の中を茶化している商品がある。 タバコの箱にしか見えない紙箱に、これまたタバコサイズのスティック粉末茶を8本詰め込んだ、ちゃばこだ。 「ちゃばこと水」があれば、「タバコと火」と同じくどこでも一服できる。 この手軽さとデザインの奇抜さが話題になって、ちゃばこは全国に広がっている。 全国の茶産地で「ご当地ちゃばこ」が作られ、今やちゃばこは100種類以上、全国約200ヶ所の土産店や生活雑貨店などで販売されている。なかには、「たばこ自動販売機」ならぬ「ちゃばこ自動販売機」が設置されている場所もある。 また、たばこのパッケージに必ずある警告文は、ユーモアたっぷりな推薦文となっている。ちゃばこで世界を茶化して、お茶のすそ野を広げている、(株)ショータイム代表 森川 翔太さんにお話をうかがった。 森川翔太(もりかわ しょうた) 1983年静岡県生まれ。東京での出版・広告業従事を経て2015年に(株)ショータイムを設立。全国的に苦境が続く茶業界において、“次世代顧客の獲得”と“生産者の技能に対する工賃の是正(茶価の向上)”をテーマに、リーフ茶の商品開発や日本茶の普及活動を実施。 茶業界に新たな舞台や演出、観客を導入(動員)し、今一度茶業界の“見せ場(ショータイム)”を創出することで、日本各地の茶産地に息づくリーフ茶文化の振興及び未来への継承を目指す。 「タバコ」ではなく「ちゃばこ」。「ちゃばこ」って何? Q:ちゃばこについて教えてください。 森川:ちゃばこは、タバコのような見た目のパッケージに粉末の日本茶スティックが入っている商品です。 ちゃばこをつくるきっかけとなったアメリカ旅行での一枚アメリカ旅行の直前、おみやげに何を持っていこうかと考えていました。 Airbnbのような民泊に泊まるつもりだったんですが、僕は英語が話せなかったので……何かコミュニケーションツールになるようなものをいくつか持っていきました。その時に持っていったものの中で喜ばれたのが日本茶だったんです。 海外での抹茶人気が高まる一方で、国内では急須を持っている⼈の絶対数が減っています。そのような状況で、今後「茶葉自体の携帯性(持ち運びの便利さ)」が、重要な指標のひとつになってくると確信しました。 初代ちゃばこのラインナップそして、持ち運びが便利な携帯性の高いものってどんなものだろう……と考えていました。タブレットやチューインガム、色々探しているなかで、コンビニでずらっとタバコが並んでいるのを見たときに「これだ!」と思ったんです。 […]

《茶✕産地》茶業衰退で茶産地は消滅するのか?在来7割、乗用摘採機ゼロ台、完全無農薬の茶産地の今と未来。【[政所茶縁の会][茶縁むすび]/山形蓮】

上の写真を見て、茶畑だと分かる人は、きっと少ないだろう。約百年前、機械化が進む以前の茶畑はこのような風景だった。茶の収穫が茶娘たちの手摘みだけだった頃、茶畑は今のような緑のストライプではなく、このような風景だった。 そして今もこの風景に新芽がめぶく茶産地がある。滋賀県東近江市の政所(まんどころ)だ。約600年前には茶栽培が始まり、今も百年以上前の茶畑の風景が守られている。かつて「宇治は茶所(ちゃどころ)、茶は政所(まんどころ)」と茶摘み唄にも歌われた古くからの銘茶の産地だ。 政所のこの風景が守られた背景は、幾重にも折り重なっているが、在来種7割、乗用摘採機ゼロ台、完全無農薬、化学肥料ゼロ、全員兼業農家など、他の茶産地にはないキーワードがたくさんある。 政所は、戦後から現在までつづく「経済合理性の追求」、具体的には、品質向上のための在来種からやぶきたへの改植、収量アップのための農薬・化学肥料の導入、効率化のための乗用摘採機の導入といったことを産地としてやってこなかった。 そして今も約60軒の兼業茶農家が2.5ヘクタールの茶畑で玉露を含む昔ながらの茶作りを続けている。 原風景ともいえる政所に広がる茶畑は「発展と拡大だけがあるべき未来なのか?」という問いに、静かに答えてくれる。政所に移住し、10年以上、政所茶にたずさわる山形さんにお話をうかがった。 山形蓮(やまがた れん) 1986年生まれ。非農家出身、元日本茶嫌い。2012年に滋賀県立大学のフィールドワークで偶然「政所(まんどころ)茶」と出会い、作り手の思いに惚れ、素人ながら仲間たちと茶畑を借りて産地に通い、一からお茶づくりを学ぶ。2014年に東近江市地域おこし協力隊第1号として移住し、政所茶の生産・加工・販売に加え、産地をPRするツアーやイベントの実施やコラボ商品の開発なども行う。政所茶生産振興会理事、政所茶縁の会代表、茶縁むすび代表。 銘茶の産地・政所を守る[政所茶縁の会] Q:[政所茶縁の会]とはどのような組織ですか? 政所茶縁の会メインメンバーの皆様(中心に立っているのが山形さん) 山形:県内に在住する30代の女性有志のメンバーがつくっている任意のチームです。メンバーに公務員の人がいたりする関係で営利活動はあまりできてはいないのですが、産地や茶畑を守ることを行っています。 また、私が代表をつとめている[政所茶縁の会]同様、私が個人事業主として事業をしているのが[茶縁むすび]です。[茶縁むすび]では政所茶をつくったり販売する他、ツアーや体験イベントなど産地のファンを増やす取り組みも行っています。 Q:山形さんの思うミッションを教えてください。 山形:政所茶の風景が、私たちの次の世代にも目に見える形で残るために今できることをする、でしょうか。 Q:[政所茶縁の会]活動する一番の魅力を教えてください。 山形:私自身が感じるやりがいや魅力は、失われつつある、日本の素晴らしく、大事なものを、微力ながらも自分が関わることで、息を永らえてくれているのかもしれないという実感が持てることです。 茶摘みの様子 日本茶っていう切り口に関わらず、日本人のDNAにある「丁寧に暮らす」とか「ものづくりの心」とか「他人を思いやる心」という大事な部分、みなさんの琴線に触れる部分がこの土地にはたくさん眠っているんだろうと思うので、政所に来ていただくとそれに触れていただけるのではと思っています。 Q:[政所茶縁の会]での山形さんの活動について教えてください。 山形:生産に関しては、今は政所産地全体で2.5ヘクタールしかないんですね。私が[政所茶縁の会]として生産に携わっているのは400平米(0.04ヘクタール)くらいしかないです。あとは、加工場のオペレーターとして入るので、基本的に全生産者の政所茶の加工をさせてもらうメンバーの一人でもあります。 […]

《茶✕オーガニック》オーガニックと認証。農薬不使用で手摘み、棚がけ栽培で石臼挽きの抹茶がひらく新世界。【赤堀製茶場/赤堀正光】

2000年代以降、抹茶が世界的に人気だ。しかし人気の抹茶は、抹茶アイスに代表される、食品加工用のフレーバー(風味)としての抹茶だ。 加工用抹茶の需要拡大と煎茶の需要減少により、各地で抹茶の生産が始まり、2021年には、鹿児島が京都を抜いて、てん茶(抹茶の原料)生産量日本一となった。 そして、抹茶の人気と同期するようにオーガニック(有機無農薬栽培)の農産物への移行も世界的なムーブメントだ。1999年、日本でもJAS認証のオーガニック(有機農産物)認証制度が導入された。2022年には農水省による「みどりの食料システム戦略」の推進がはじまり、さらにオーガニックへの流れが加速されると思われる。 しかし、オーガニックと言えば、「認証」が当然のようであるが、現実は、国内で農薬不使用に取り組む農家の6割以上が「オーガニック認証」を取得していない。「オーガニック認証」制度には、さまざまなコストがかかり、小規模な農家にとっては負担が大きすぎるからだ。 そのような状況のもと、古くからの抹茶の産地、愛知県西尾市にて、5代にわたり抹茶を生産する茶農家である赤堀製茶場の赤堀正光さんの取り組みをここで紹介したい。赤堀さんは2017年より、農薬不使用・有機農法に取り組んでいる。そして棚がけ栽培、そして手摘み収穫、伝統的な碾茶炉で製茶し、石臼挽きの抹茶を生産・販売している。 日本で唯一ともいえるこの抹茶の生産に挑戦しつづける赤堀さんにお話をうかがった。 赤堀正光(あかほり まさみつ) 地元実業高校を卒業後、京都有名老舗問屋にて2年間住み込み修業を行い、2000年に家業である赤堀製茶場へ就農。栽培から製造、お茶に関するノウハウを勉強し2012年に5代目に就任した。 地域学習で子供たちとのふれあいなどを通し、安心して手にとってもらえるお茶作りをしたいと考え、減農薬栽培に挑戦。2017年より農薬不使用栽培に切り替え、有機農法にも取り組み中。 また、土日にはキッチンカーでこだわりの抹茶を振舞う。 古くからの抹茶の産地・愛知県西尾。この地で五代にわたり抹茶をつくり続ける赤堀製茶場とは。 Q:赤堀製茶場についてご紹介ください。 赤堀:弊社のある愛知県西尾市は、古くからの抹茶の産地です。 西尾に初めて茶の木が植えられたのは、約750年前、と言われています。明治初期に碾茶(てんちゃ/抹茶の原料)の栽培が本格化しました。赤堀製茶場もその頃から碾茶の栽培をしている、現在では僕で5代目になる茶農家です。 いまは農薬不使用栽培をしており、有機肥料を使った茶栽培にも取り組んでおり、収穫・製茶から販売まですべて行なっています。 イベントなどに出動し、お茶を振る舞ってくれるキッチンカー 僕が思ったことはやってみたくなってしまうタイプの人間なので、その他にもキッチンカーでのイベント出店や事務所を改装して家族で小さなカフェを運営していたり、地元の小中学生の茶摘み体験や職場体験などを受け入れたりもしています。 茶畑は、なんだかんだで広がって約8haあります。ほぼ棚がけ被覆で栽培をしています。直がけ栽培は0.3haくらいですね。 ※棚がけ栽培と直がけ栽培 抹茶の原料であるてん茶の栽培は、茶畑に棚をつくる伝統的な棚がけ栽培と、遮光ネットを茶の木に直接かぶせる直がけ栽培の2種類がある。茶道のお点前用に使用される抹茶は棚がけで生産される抹茶が多い。抹茶チョコなどの食品加工用の抹茶は、直がけで栽培された抹茶が使われることが多い。 手摘み・棚がけ・農薬不使用・有機肥料のみという茶づくり […]

《茶✕学び》茶産地から伝えるお茶の魅力。単発で終わらないお茶セミナーでふえる産地の応援団 【八女茶ソムリエスクール/竹中昌子】

日本茶インストラクター制度が始まって20年以上が経過し、各茶産地でもさまざまなセミナーやワークショップが茶摘み時期に限らず、開催されている。 最近では、各茶産地でも「知覧茶アドバイザー養成講座」、「宇治茶アカデミー」、「さやまちゃ塾」といった連続講座も行われるようになってきた。その背景には、「もっとお茶について知りたい」という、お茶が好きな消費者ニーズの高まりがうかがえる。 そういったトレンドのなかで八女茶ソムリエスクールは、「『八女茶』を美味しく楽しく淹れることができる人材を育成する」ために2022年に開講した。 八女茶ソムリエスクールの興味深い点としては、4つのコース(コンシェルジュ、ジュニアソムリエ、ソムリエ、マスターソムリエ)を育成していく意欲的な点である。「ペットボトルのお茶が基本」となった今、「淹れ方」や「その背景にある魅力」を知ることで変わるお茶の味わいをどのように伝えていくかという点は、お茶の可能性を広げるために欠かせない重要なテーマである。 今回、お茶の魅力を「学び、体験する」分野で活躍される、八女茶ソムリエスクール専任講師、竹中昌子さんにお話を伺った。 竹中昌子(たけなか しょうこ) 【TEA FOREST JAPANESE】代表福岡市内の和菓子店にて和菓子職人として勤務時、日本茶を学びはじめ、和菓子店を退職とともに【TEA FOREST JAPANESE】日本茶のイベント会社事業をスタート。NPO 法人日本茶普及協会茶育指導士。一般社団法人日本フードライセンス国際協会和菓子コーディネーターの資格も有し、八女伝統本玉露ブランディングスタッフや NPO 法人日本茶インストラクター協会の福岡県支部理事を兼任。 八女茶ソムリエスクールの立ち上げ。「八女茶の今を楽しむ」イベントがきっかけに Q:八女茶ソムリエスクールについて教えてください。 竹中:八女商工会議所が主催となり、江戸末期に建てられた元造り酒屋の建物をリノベーションしました「八女市横町町家交流館」という歴史的建造物のなかで、日本茶の専門家から八女茶の歴史やお茶の効能、お茶の美味しい淹れ方などを学ぶスクールとなっています。 八女茶ソムリエスクールのなかで「コンシェルジュコース」は、1番最初に誕生したコースで、八女茶をおいしく・楽しく学び、八女茶ファンの輪を広げるということを目的としております。1日完結の内容ですので、観光を含めて八女茶と触れ合う1日をお過ごし頂いています。 コース内容は、午前中は八女茶の歴史や効能、種類や淹れ方などを学ぶ「座学の部」。そして午後から八女茶をワイングラスで楽しんで頂く「呈茶の部」といたしまして、6種類の色々な淹れ方の八女茶を茶会風に味わって頂くという内容になっています。 もう一つの「ジュニアソムリエコース」は、もうワンランク上のコースとなっております。八女茶の特徴やおいしさをより深く理解し、実践的な経験を体験して頂く内容となっています。 例えば、八女茶発祥の地といわれる「八女市黒木町の霊巌寺」に出向きお話をお聞きしたり、茶畑での茶摘み体験や、茶工場を見学して製造過程を学んで頂いたりと、年間時期を変えながら合計6回八女市にお越し頂き、実践的な講習を受けて頂いています。 […]