まとめ

まとめ

ここまで読まれてみて、いかがだっただろうか?

30の取り組みをすべて読むのは、かなりパワーがいると思う。
実際、今回取材させてもらった30人の革新者たちは、皆さん寝る間も惜しんで、命懸けでやっている事業ばかりだ。

それだけに我々取材チームもその情熱についていくだけで必死だった。(今も午前1時を回ったところだ。)

「日本茶の30人」の情熱を少しでも感じてもらえるように、我々にできること、取材・執筆・編集・構成に全力を傾けたつもりだ。

ただ、自分たちの能力の限界も多々ある。

まずひとつめは、30人しかご紹介できていないこと。

今回、選出させていただいた30人の他にもすばらしい取り組みをされている方は多数おられる。ただ「はじめに」でも触れた4つのポイントを勘案しながら、30人だけを選出させていただいた。もし自分たちにもっと能力があれば、「日本茶の100人」を選出し、100人をご紹介したいところである。

そして2つ目が、まだ「発見できてない革新的な取り組み」があるかもしれないということ。

日本でお茶を飲んだことがない人を探すのが難しいように、お茶は水や空気のように日本じゅうで飲まれている。それだけに「お茶✕〇〇」という切り口で、何ヶ月も革新的な取組を探したが、いまだ見出せていない革新的な取り組みがあるかもしれない。この点は、読者の方々にも、今回出会えなかった革新者の方にも、申し訳ないと思っている。

数年以内に「日本茶の30人」(人数は変わるかもしれないが)を調査し、それらのまだ見ぬ革新者をぜひ紹介したいと考えている。

なので、もし「こんな革新的な取り組みがある!」という場合は、ぜひ連絡してほしい。すぐにでもお話を伺いに行きたい。

最後に今回の日本茶の30人を選出するにあたり、1点だけバイアスをかけた部分がある。

それはできるだけ「女性を選出した」という点だ。

家でお茶を淹れる人や茶道をたしなむ人に女性は多い。実際、茶業にもたくさんの女性が関わっている。それにも関わらず、オモテに出てくるのは男性が多い。

「21世紀は女性の時代」と言われるように、今後、日本の茶業でも女性がオモテに出て活躍すると想像している。今回の「日本茶の30人」でも、なるだけ女性に出ていただいた。

以上が、ここでお伝えしたいことだ。

ここからは、「日本茶の30人」の取材を終えて、わたしたちが得た知見をまとめる。

■30人の共通点と相違点

●共通点〜30人に共通するもの

▼ライバルがいない

 「日本茶の30人」に共通するものは、ライバルがいないという点だ。「ティーペアリング」や「ドラフトティー(窒素ガスで発泡させたお茶)」は、商標登録までなされており、競合は存在する。しかしトップランナーにとって、ライバルは眼中にない。

ベンチマークについても「日本お茶割り協会」が、「日本唐揚協会」を参考にしているとお話されていたくらいで、他の29人は、明確なベンチマークには言及しなかった。取材前に想定していたのは、他業種を参考にしながら、事業を進めているのではないか?と考察していたが、実際は違っていた。

▼仕事に熱中している

「日本茶の30人」は、仕事に熱中している人たちばかりだ。四六時中、仕事のことを考え、朝から自発的に行動し、夜中まで働いている。

その言葉はこうだ。

「お茶があるから自分がある。こんなに掴めなくて、ゴールが捉えられないものなんて今まで出会ったことないし、人生をかけて取り組むには時間が足りないとさえ思います。」日本茶生活|三浦さん

「仕事として儲からないからやめたい」という感情は全くなく、どうやったら残っていけるのか、おもしろがりつつ、日々試行錯誤を重ねています。」

「茶の実に対する情熱が沸騰しすぎていて、もう蒸発している可能性がありますね(笑)。」日本茶の実油協会|地藤さん

仕事=能力✕情熱✕時間と言われるが、自らの持てる力を結集し、それを超えたところに「革新」は、やはり存在するのだろう。

だれかに依頼され、やらされている仕事では、革新は生まれない。スタート時点がたとえ「やらされ仕事」であっても、内発的な動機にまで昇華し、熱中しきっているからこそ、そこに革新が生まれる。

▼革新はマイペースで進めよう

30人の革新者は、マイペースと言える。もちろん日々、猛烈な量のタスクをこなしている。また売上といった事業を存続させるために必要なスケジュールはある。

しかし、革新には明確な到達地点(ゴール)がないので、明確なスケジュールを立てるのは無理だ。

到達地点(ゴール)を変化させるのが、革新そのものと言ってもいい。

歴史家や研究者にとって、革新はすでに「起こったこと」である。そのため、革新は「静的」だ。

しかし革新の現場においては、革新は、現在進行系で「今まさに起きていること」だ。つまり「静的」ではなく、「動的」で変化の渦中といえる。

言ってしまえば、茶✕〇〇というより、茶✕〇〇✕〇〇と切り口をどんどん増やしてゆく作業とも言える。

結果、革新にいたる道筋は、ゴール自体を探りながら進めてゆくプロセスそのものである。そこで重要なのは、スケジュールではなく、失敗を許容し、それでも情熱を失わないことだ。

つまり革新者は、一番乗りでその領域に到達したように見えるが、日々の行動としては、着々とマイペースで進んだ結果が「革新的だった」ということになる。

●相違点〜30人に共通しないもの

▼お茶とはなにか?

相違点は、たくさんあった。
なかでも「お茶とはなにか?」というお茶のとらえ方があまりに違っており、興味深い。

その答えは、

「世界に誇る宝」 ちゃばこ|森川翔太

「家族」 mirume深緑茶房|松本壮真

「人生そのもの」 売茶中村|中村栄志

「自分より大きいもの。対峙する存在として、触っても動かないもの」

TOKYO TEA JOURNAL|谷本幹人

「日本が抱えている課題の縮図」CHABAKKA TEA PARKS|三浦健

「人と仲よくするということの象徴」 竹の茶室「帰庵」|戸田惺山

「遊びの一環」 京都おぶぶ茶苑|松本裕和

「面白くて可能性があるもの」 絶景ティーテラス「茶の間」|辻せりか

「東アジアのすごくおもしろい文化」 給湯流茶道|谷田半休

と、千差万別であった。

この違いこそが、革新を生み出せる源泉なのかもしれない。

またお茶が、水や空気のように当たり前であるがゆえに、「お茶とはなにか?」という問いの答えも無数に存在するということだろう。これは後述する、日本においてお茶が「とらえどころのないもの」としての現れともいえ、お茶の難しさにもつながると思われる。

▼バリューとマネタイズ

バリューとマネタイズに関しては、マネタイズ(換価、収益化)を目的にしていない取り組みも選出させてもらった。ビジネスという観点では、マネタイズは最重要視されるべきである。しかし革新性という視点においては、必ずしもマネタイズが最重要項目ではない。

特に文化やエンターテイメント、学び、集まりという領域でのマネタイズ(収益化)は、どの部分で、どのように、いくらで値付けしてマネタイズするかが難しい。難しいという以前に、現代の売茶翁・長谷川秀明さんが言うように、こちらから値付けするのではなく、「無料でお茶を提供し、ドネーション(寄付)でお金をもらうべき」という考え方もある。

また、日本では、「いまだ無形のサービス(知識や体験、特にお茶のような日本固有の文化)は無料」という通念の影響も大きい。

また「茶✕ロボティクス」、「茶✕DNA」のように、現時点では一般販売はされておらず、極めて高額であるが、普及するにつれ、低廉化する革新も紹介した。

▼トレンドと事業ステージ

トレンド(流行)とそれぞれの取り組みとの位置関係はさまざまである。

デザートコース「茶✕デザート」や、お茶割り「茶✕アルコール」は、すぐにでもトレンドを迎えるであろう。しかし、冷凍茶葉「茶✕冷凍」、茶の実油「茶✕実・油」のように大きなうねりが生まれるまでにはまだもう少し時間がかかりそうだ。

このように時間軸における、トレンドとの位置関係がさまざまな革新を選出した。

また、それぞれの取り組みの事業ステージについてもさまざまである。

革新的な商品・サービスを持ちながら、すでに事業としても成立している取り組みから、そもそも事業化(収益化)を目指さない取り組みまで、さまざまな事業ステージの取り組みを紹介している。

■お茶(日本茶)の難しさ

そして、今回の取材において、お茶(日本茶)の難しさについても質問した。

各分野で活躍する「日本茶の30人」たちは、どんな点を「難しい」と感じ、それらは共通しているのかについて、訊いてみた。

それで得た答えをここで2つ紹介したい。

●お茶は、ただ(無料)

「茶銭は黄金百鎰(いつ)より半文銭までくれしだい。 ただにて飲むも勝手なり。ただよりほかはまけ申さず」売茶翁

これは江戸時代に煎茶を庶民に広めた売茶翁(ばいさおう)の言葉だ。売茶翁は61歳の年、京都でお茶をふるまい始めた(1736年)。

ちょうど売茶翁が生きた頃、隠元禅師が煎茶を伝え(1654年)、永谷宗円が伸び煎茶を発明した(1738年)。この頃、抹茶は上流階級の飲み物だった。そして、煎茶が伝来し、佐賀出身だった売茶翁は、煎茶の魅力を市中の人々にまで広めたと言われている。

その時の売り文句が、冒頭の言葉だ。その意味は、「お茶の代金は、お金があるならありったけから、ほんの気持ちまでいくらでもOK。無料で飲むのもあなた次第。ただし無料以下にはまけません。」だ。

売茶翁の生きた時代は、約300年前であるが、この時代から脈々と受け継がれるものがお茶にはあるように思う。

まず、お茶の価値が「ただ(無料)」から始まる点である。

今でも多くの飲食店で、お茶は無料で提供されている。

コーヒーや紅茶が一杯300円は普通だが、ほうじ茶や煎茶が1杯300円だと特別だ。

そして、お茶をよく飲む人(特に年配の方)に「お茶を知っていますか?」と尋ねると、多くの方が「お茶は好きだけど、よく知らない」と答える。

ふだん「お茶」を毎日のように飲んでいるにも関わらず、またお店で「お茶」はただで提供されて当たり前なのに、「お茶」には自分には縁遠い世界があると思っている点だ。

この2つのはざまにあるのが、「お茶」であるように思う。

『日本の多くの人が違う環境の中で日本茶に触れ合ってきてしまっているので「ふつう」という概念がバラバラなんです。人によっては安いものであったり、逆に高価なものであったり。お金を払う価値のあるものであったり、無料で提供されるのが「ふつう」であったり。その「ふつう」を作り上げている各個人の原体験はもちろんみんな異なります。

各個人の過去が積み重なってきたのが日本茶の歴史なんですよね。ただみんなが違う原体験を持っているので、お茶に対する価値観や考え方が違う。一人ひとりに対して提案を変えていかなければならない。そう考えたときに、アプローチがとても難しいと感じます。』(日本茶生活・三浦一崇さん)

この点は、飲食店でお茶(特に煎茶やほうじ茶、玄米茶など)を有料で提供した際に如実に現れる難しさのように思える。

ただお茶は無料という固定概念も少しずつ変わってきているのも事実だ。

茶✕ペアリングで紹介した、ロジコネクティーの河野知基さんが、

「その固定概念を壊していくというのが難しさであり、楽しみだとも思っています。」

と話すように、日本茶カフェやティーペアリングを楽しめるようなレストランでは、お茶はただ(無料)では出てこないというのは大きな変化だろう。

●お茶は面倒くさい

そしてもう一つのお茶の難しさは、「面倒くさい」という点だ。

お茶は、2つの点で「面倒くさい」と思われている。

ひとつめが「淹れ方」だ。

お茶は淹れ方次第で味が変わる。それが醍醐味という人もいるが、忙しい時やこだわりのない人にとって、それは「面倒」なことだ。

日本お茶割り協会の多治見智高さんが指摘するとおり、

『お家でコーヒー豆から挽いてこだわっているような方って一定数いますよね。あの感じで日本茶を楽しむ人を増やしたいんですよね。ただ、日本茶の方がコーヒーと比べると失敗する箇所が多いので、難しいとも思っています。特に日本茶こと緑色のお茶に関しては淹れる工程において面倒なことが多すぎる。』

というのが、お茶が『面倒くさい』と思われている一点目であろう。

ふたつめが「まじめ」だ。

『お茶ってコーヒーなどに比べてすごく真面目な印象があるなと思いますし、お茶をはじめることにハードルの高さを感じている方も多くいると思います。この印象やとっつきにくさが、お茶の難しさに繋がっているのではないかと思います。

ティースタンドにお茶を飲みにきてくださった方に、「この茶は〇〇っていう品種を使ってて……」といった話を少ししただけでも、「ごめんなさい、詳しくなくて」と言われてしまうことがよくあります。』(AOBEAT 辻せりかさん)

お茶(日本茶)は、「日本のもの」という考えがあるため、「知ってて当然」なのに「知らなくて恥ずかしい」という思いを持っている人も多いように思う。

また、茶道により、お茶には作法やマナーがあるというイメージも強い。

これにより、ふだん毎日お茶を飲んでいる人にとっても「自分はお茶を知らない」と思わせ、「ハードルの高さを感じている方も多くいる」状況を作っている。

これらのお茶の「まじめ」な印象が、お茶を「面倒くさい」と思わせる2点目だろう。

■これから起きること

▼さらなる淘汰

「日本茶の30人」の取材を通して感じたことは、30人それぞれ言葉は様々であるが、今後もさらなる淘汰が進むと感じながら、事業を推進しているということだ。

茶の生産量でいうと、1975年に生産量のピーク10万トン以降、2000年代にペットボトル茶の登場による生産量の増加があったものの、減少傾向にある。

現在の茶の生産量8万トンは、1960年代の茶生産量と同じくらいだ。

抹茶ラテや抹茶スイーツのための食品加工用抹茶の需要はこれからも増えると予測されている。しかし2000年代のペットボトル茶による生産量の増加ほどのインパクトを生み出すのは難しいだろう。

お茶の輸出に関しても全体の生産量を増加させるほどには至らない。

残念ではあるが、今後も縮小傾向がつづくと見るべきだろう。

▼需要はゼロにはならない

ただ、お茶の需要は決してゼロにはならない。特に海外からの需要は、抹茶をはじめ、今後もしばらくは増加すると思われる。

また国内の需要についても減少は続くが、ゼロにはならない。ペットボトルのお茶は年代を問わず、消費されていることからも、「急須で淹れたお茶」はこれからも減少してしまうのであろうが、国内においてもお茶の需要がゼロになることはない。

▼群雄割拠の時代

淘汰は進むが、需要はゼロにならないという状況が、これからも続くとみていいだろう。

そのような状況の中で、今回ご紹介した「日本茶の30人」のような革新の中から、「ペットボトルのお茶」や「抹茶スイーツ」のような大きな潮流が生まれてくる。

しかしIT技術の浸透によるフラット化、世界中の個人に宅配できる世界においては、需要はますます多様化できる状況にある。そのため、たとえ大きな潮流が生まれたとしても、それにすべてが統合してゆくことはない。

これまでの「やぶきた」、「100g千円のブレンド茶」といった基準はますますなくなり、「売れる商品を作る」ではなく、「売りたい商品を作って、自分たちで売る」ことがますます可能になり、重要になるといえる。

海外でもお茶(日本式のお茶)の生産がさらに広がり、価格競争力のあるお茶(言わば安いお茶)の供給者は、海外に移転してゆくだろう。これは、自動車、パイナップルやバナナの生産国が移転しているのに似ている。

また、お茶の場合、「茶畑の景観」や「体験」、「茶道に代表される生涯学習的な価値」といったさまざまな価値が、飲む以外にも存在している。

そういった多様な価値は、さらに多様化し、受け入れられる環境はますます整ってくると思われる。

つまり、大きな潮流が生まれたとしても、それに迎合する必要はない。売りたい商品をしっかり作り、売ることができる環境がますます整ってくる。

日本茶生活の三浦一崇さんの言葉を借りれば、「群雄割拠な時代」がさらに進むと言える。

それは、茶✕産地で紹介した、政所茶の山形蓮さんの取り組みのように守り続けることも含まれるし、現代の売茶翁・長谷川秀明さんのように取り組み自体で収益は求めないが、話題や需要を喚起する取り組みも含まれる。

つまり「群雄割拠な時代」とは、戦いや下剋上といった意味よりも、さまざまな場所で、さまざまな方向を目指して、さまざまな取り組みがさらに起こる多様な世界を意味している。

TOKYO TEA JOURNALの谷本幹人さんの言うように、『今後は「このコミュニティに属して、貢献したい」と思えるようなものが残っていく時代です。だからこそ「いいものをちゃんと伝える」という本質的な行為ができるお茶が生き残っていくのではないでしょうか。』

これこそが「群雄割拠の時代」と言える。

▼ビジョンとリーダーシップの重要性

そのような「群雄割拠の時代」において最も大事になってくるのが、ビジョンとリーダーシップだろう。

ビジョンとは「実現したい未来像」、リーダーシップとは、「指導力」や「統率力」といった和訳があてられている。この2つは、ビジョンから未来を創り出す「革新」の現場には、欠かせないキーワードだ。

TEA ROOMの岩本涼さんのような大志と思考は、ビジョンそのものだ。学生時代にゼロからスタートして、十年も経たぬ間に独自の世界観を構築している。岩本さんのビジョンはさらに現実になるだろう。

ビジョンを掲げると仲間が集まる。またビジョンを実現するには一人では無理だ。少なくともお茶を飲んでくれる人が必要だ。

日本お茶割り協会の多治見智高さん、ティーテラス茶の間の辻せりかさん、朝ボトルの松本壮真さんのように、さまざまなビジョンを仲間とともに現実に落とし込んでいる姿をみると、心の底からエールを送りたくなる。これまでにない方法でお茶を次世代にアップデートしてくれている姿を見ると心強い。

そういった革新の現場には、あいまいなビジョンは通用しない。ビジョンは、一杯のお茶から実現したい世界観の全てまでくっきりと映し出す必要がある。

もちろん始めから全てを見通すことは不可能だろう。しかしビジョンが鮮明になるまで、仲間とやり抜く力=リーダーシップがなければ、革新は実現しない。

KADODE OOIGAWAのような茶業界において破格の大型施設を、2020年11月というコロナ禍真っ只中にオープンさせたのもビジョンとリーダーシップの賜物と言える。

ビジョンを実現するためには、時間がかかる。しかも思ったようにいかないことも多い。特に最初のうちは。

試行錯誤の日々の中で、ビジョンを調整しながら、仲間と顧客を率いるリーダーシップが「群雄割拠の時代」においては、ますます重要になっている。

■革新を始める人へのアイデア

「日本茶の30人」から学ぶことは非常に多い。
その中でも、革新をこれから始める人にとって、参考になると思われることを3点、記述する。

●抹茶風味とペットボトルとティーバッグ

年間90万人以上が訪れるお茶の大型施設・KADODE OOIGAWA 太田昂甫さんが言うとおり、「いまの時代、急須を持っている方も少ない」というのが現実だ。

これからもペットボトル用のお茶、それからティーバッグのお茶の需要は増えてゆくだろう。

また抹茶風味のための食品加工用抹茶の需要も増えると思われる。

抹茶風味とペットボトルとティーバッグの需要が増えれば、低価格から高品質のものまで、多様な需要が生まれると思われる。

そして低価格の需要に答える生産地は、国内から海外に移転してゆくと思われる。

●便利とわざわざ

急須がもはや一般的でなくなった今、お茶の基準は、手軽なペットボトルやティーバッグに移動したといえる。

竹の茶室・帰庵の戸田惺山さんがおっしゃるとおり、

「今の時代、お茶はペットボトルで購入してラッパ飲みするようなご時世ですよ。お茶を一碗ずつ点てるなんていうのは、時代遅れも甚だしい。」ことであるのは間違いない。

しかし、

「アメリカのロサンゼルスへ行って、「帰庵」で女性の方に抹茶を点てていたら、突然その方が泣き始めはったんですよ。

どうしはったんですかと聞くと「私のためにこんなことしてもらったことがない」と。確かによくよく考えると、その人のためだけに何かを“つくる”、“してあげる”なんて現代では案外ないのかな」(同・戸田惺山さん)

この話のとおり、便利になればなるほど、戸田さんのように心を込めてお茶を差し上げる行為は、希少性を増してくる。

戸田さんたちの場合、取り組みにおいてマネタイズを志向していないからこそ、この「わざわざ」お茶を差し上げることの純粋性が際立ち、感動にまでいたるのだと思う。

しかし茶を生業にする者にとっても、この「便利とわざわざ」の話は、とても示唆深い。

日常のお茶は、「便利」に向かうとしても、非日常のお茶は「わざわざ」を志向できるということだ。

AOBEATのティーテラス「茶の間」や京都おぶぶ茶苑のティーツアーは、まさしく「わざわざ」をマネタイズしていると言える。顧客は、お茶を飲むためにわざわざ「景観」や「ガイド」にお金を払ってまで、非日常を体験しに来るのだ。

●「広義の茶」と「狭義の茶」

お茶という言葉の持つ意味は広い。

茶業界で需要拡大したいのは、チャノキ(学名:カメリアシネンシス)から収穫できる「お茶」だ。

そして喫茶店で誰かとコーヒーを飲んで話したら、「お茶した」とも言う。

つまり「お茶」という言葉には、チャノキが原料の「狭義のお茶」とハーブティーやコーヒーまで含まれる「広義のお茶」という2つの意味がある。

これまで「お茶」といえば「煎茶」のことを指すのが一般的だった。しかし今、「和紅茶」という言葉も知る人が増え、ハーブティーなど、他の植物由来のお茶も人気だ。

また、茶✕クリエイティブでご紹介いただいたようにソバーキュリアス(酒の席であえて酒を飲まない選択)やスマートドリンキングのコンセプトはこれからのトレンドになるだろう。そうすると酒場とカフェの境界は薄れ、パーティー(酒の席)でのお茶の消費が増えることになるだろう。

しかし、その場合のお茶とは、「狭義のお茶」である煎茶等ではなく、「広義のお茶」である植物由来の飲み物だろう。

またもっと広義になれば、入浴剤、サウナのロウリュウなど、お茶はますます飲むだけにとどまらなくなると思われる。これは、抹茶風味のための食品加工用抹茶の流れにも合致する。

つまり今後は、「広義のお茶」の中に「狭義のお茶」があるというスタンスが重要になると思われる。

このような流れは、「茶✕ペアリング」の河野さんや「茶✕輸出」のイアンさんの取り組みが参考になる。

「日本茶の30人」が今まさに進めている革新から学ぶことはとても多い。ここでは、3つだけ言及した。

しかし「6次化(茶業一貫体制)」や「バリューとマネタイズ」という視点でもぜひ30人の革新について、観察してほしい。その点においても示唆や発見があると思う。

■あとがき

「日本茶の30人」は、いかがだっただろうか?

構想から1年以上、総文字数20万字を超えるプロジェクトとなった。

たぶん読むだけでも大変だと思う。

だから、きっと「あとがき」から読む方もいるだろう。

「日本茶の30人」が伝えてくれていることは、お茶は「可能性の塊」であり、わたしたちが共有する「日本の宝」であるということだ。

「日本茶の30人」たちは、日々それを証明してくれている。

わたしたちを魅了してやまないお茶には、まだまだやれることがたくさんある。

ぜひ、あなたにも「日本茶の30人」のように独自の切り口で、お茶を飲みながら、何かを始めてもらえたら、これほど嬉しいことはない。

■謝辞

今回「日本茶の30人」という事業に取り組ませていただけたことに、心から感謝しています。

茶業界の片隅をさまよい続ける自分たちにこのような機会を与えてくれた、農林水産省、公益社団法人日本茶業中央会の皆さまには心からの感謝を贈りたいです。

 また、本事業の実行にあたり、頼りない自分を支えてくれた、国際日本茶協会やKoogaのメンバー、取材先のご紹介、そして取材に快く応じてくださった「日本茶の30人」の皆様には、言葉では伝えきれない感謝の念があることを重ねてここでお伝えしたい。

本当に本当にありがとうございます。

そして今、最後の最後まで自分のつたない文章をお読みくださっているあなたにも感謝とその忍耐力を心から讃え、いつの日か、「日本茶の30人」の皆さまようを日本茶の世界を「広げる」活動領域において、ご活躍くださることを祈っています。

本当にありがとうございました。

皆さまのますますのご発展により、日本茶の領域が広がり、需要が拡大することを祈念してやみません。

■制作協力

取材協力

・望月重太朗(REDD inc.)
・稲井田将行/戸田惺山住職
・長谷川秀明(月帆庵)
・家元(仮)谷田半休(給湯流茶道)
・竹中昌子(八女茶ソムリエスクール)
・満木葉子(日本茶アンバサダー協会)
・三浦一崇(日本茶生活)
・一家崇志(静岡大学)
・中村栄志(売茶中村)
・河野知基(LogiConnecTea)
・多治見智高(日本お茶割り協会)
・辻せりか(AOBEAT)
・濱田裕章(龍名館)
・松本裕和(京都おぶぶ茶苑)
・興梠洋一(緑碧茶園)
・赤堀正光(赤堀製茶場)
・岩本涼(TeaRoom)
・山形蓮(茶縁むすび)
・堀口大輔(堀口製茶)
・松本壮真(mirume深緑茶房)
・田中俊大(VERT)
・小山和裕(抽出舎)
・谷本幹人(TOKYO TEA JOURNAL)
・地藤久美子(日本 茶の実油協会)
・Ian Chun(Yunomi.life)
・足久保ティーワークス
・KADODE OOIGAWA
・森川翔太(ショータイム)
・三浦健(CHABAKKA TEA PARKS)
・松本浩毅(カネロク松本園)

製作

株式会社Kooga

編集

吉田実佐子(Kooga)

執筆

吉田実佐子(Kooga)
ゆい
猪狩 明日奈
有村 奈津美

コーディング

三輪翔(Kooga)

英訳

鈴木シモナ(国際日本茶協会)

インタビュアー

松本靖治(国際日本茶協会)

実施者

一般社団法人 国際日本茶協会

運営者

日本茶業体制強化推進協議会