《茶✕エンタメ》抹茶ラテアートで、お茶文化にライブ感とエンタメ性を。お茶をもっとみんなのものに。【抽出舎/小山和裕】

「茶文化」というと、妙に重みを感じるのは、なぜか?

「コーヒー文化」や「酒文化」とは、なにかちがう歴史の重みを「茶文化」という言葉は秘めている。この重みがお茶に魅力を与え、お茶を遠ざける一因でもあるだろう。

今回ご紹介する小山和裕さんが実践する「茶文化」は、歴史の重みに鎮められた「茶文化」ではなく、ライブ感あふれるエンターテイメント性に富んだ「茶文化」だ。それが日本唯一の抹茶ラテアート大会「Japan Matcha Latte Art Competition(ジャパン マッチャラテアート コンペティション:以下、抹茶ラテアート大会)」である。

日本唯一の抹茶ラテアート大会を運営している株式会社抽出舎の代表である小山さんは「生活の中に豊かさの選択肢をつくる」をミッションとし人々が日本茶との接点をより多く持てるよう、布石を打ってきた。

この大会の他にも東京・西荻窪では日本茶スタンド「Satén japanese tea」や日本茶情報メディア「Re:leaf Record」、日本茶業界の求人サイト「Re:leaf JOBs」など、日本茶に関する様々な事業を多角的に展開している。

どうして日本茶との接点を一つでも多く作るのか、どうして「Japan Matcha Latte Art Competition」というあえて日本茶を取り入れた大会を運営するようになったのか。小山さんが考える戦略とはいかなるモノなのか。お話をうかがった。


小山和裕(こやま かずひろ)
株式会社抽出舎 CEO。日本茶スタンド『Satén japanese tea』オーナー茶リスタ。日本茶メディア『Re:leaf Record』運営。抹茶ラテアート大会『抹茶ラテアート大会』主催。日本ラテアート協会 理事。日本茶を間に、生活が豊かになる選択肢をつくる事業を行なっています。

コーヒー業界の視点から客観視したからこそ感じた日本茶業界へのギャップ。

Q:日本茶スタンド「Satén japanese tea」をやろうと思ったきっかけを教えてください。

saten東京・西荻窪にあるSatén japanese tea
小山:じつは僕、ずっとコーヒーが飲めなかったんです。

家で父親が飲んでいたインスタントコーヒーや、昔ながらの喫茶店で出てくる深煎りのコーヒーが飲めなかったんです。

でもサードウェーブ*1が日本に到来したくらいの年にバリスタの方が淹れてくれたコーヒーを飲む機会があって。そのコーヒーがとてもおいしくて、カフェという空間が好きだったこともあり、カフェをやってみたいと思うようになりました。

ただ、僕はバイト含め飲食経験がなかったので、本格的にカフェをやるなら実地での勉強が必要だと思い、レストランに就職し、カフェ開業の準備を始めました。

この時点では日本茶カフェという考えはないので、原体験というのが良いかもしれません。

Q:日本茶のカフェにしようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

小山:カフェの開業を目指すために、コーヒーについて学べるセミナーを受講し勉強をしてはいたのですが、勉強すればするほどコーヒーだと新規参入は難しいかなと感じるようになっていきました。

ちょうどその頃、古民家カフェが流行っていたので、そこで出された日本茶に関心を持つようになりました。そして日本茶カフェ巡りもするようになり、東京の[茶茶の間]へ行ったとき、淹れてもらった日本茶のおいしさとその奥深さに感動し、コーヒーと並行してお茶も勉強し始めました。

実はその後、ご縁があり[茶茶の間]で働くようになりました。

日本茶について勉強するようになり感じたことは、コーヒー業界とのギャップでした。日本茶はそもそもセミナーのような講座があまりなく、稀に見つけて行ってみても同世代の20~30代はいなくて、僕よりも年配の方ばかりでした。

よくよく思い返してみると、幼少期から家でもお茶を飲んでいましたし、ペットボトルで手軽に飲むことができるのに、僕はお茶のことを全く知らないことに気がつきました。

一方、日常生活に目を向けてみると、そのペットボトルのお茶の手軽さからなのか、若い人ほどお茶を飲んでるという印象ももつようになりました。

自分が思っていたよりも若い人はお茶を飲んでいる。お茶の世界は奥が深くて興味深く、コーヒー業界は新規参入が難しそうなどの理由が繋がり、コーヒーから日本茶路線に移りましたね。

せっかく日本人として生まれてきたんだから、お茶のこと知らなきゃなと思うようになりました。

一人でも多くの人がお茶との接点をもてる事業展開を

Q:抽出舎の事業ミッションと小山さんご自身の個人のミッションをお聞かせください。

小山:僕が経営する株式会社抽出舎は「生活の中に豊かさの選択肢をつくる」というのがミッションの一つなので、そこが事業と個人ミッションとしてリンクしていますね。

お茶というテーマに対して、どうやって関わっていく人を増やしていくのかを考え続けています。お茶に関わる接点となる基軸を増やし、関わる人を増やすということに今は尽力しています。

小山さん中央に写っているのが小山さん

Q:「接点」を増やすことの一番の魅力を教えてください。

小山:今その魅力を実感しているところですが、一方で言語化が難しく、できてないんですよね……。

日本茶に関わる仕事をしていて思うのは、今までお茶が嫌いっていう人に出会ったことがない。日本に住む人々は生活の中に何かしらお茶は接点のある存在であり、お茶に関する何かしらに興味はある。今まで僕たちはそのお茶との接点にフォーカスしていなかっただけだと思うんです。

日常のなかで何かしらお茶との接点が増えていくと、 日本茶の奥深さや新しい発見や繋がりなどに気づけておもしろいなと思います。

Q:小山さんは日本茶スタンド「Satén japanese tea」、「抹茶ラテアート大会」をはじめとする様々なことを手がけてらっしゃいますが、なぜそんなに多角的なのでしょう。

小山:コーヒー業界ではコーヒーを淹れるスペシャリストのことをバリスタといいますよね。日本茶はどうでしょう。日本茶は“淹れ手”というポジションが圧倒的に少ないんです。

saten

今でこそ“淹れ手”という言葉がありますが、10年くらい前まではそのポジションは飲食店では存在しませんでした。日本茶の淹れ方、提供の仕方を知っている人がいない。

お茶といういい素材があるのに、それを飲食店で提供できる人材がいないことに課題を感じましたね。お茶を淹れて、提供できる“淹れ手”を育てなければ、お茶を広げていけないなと思いました。

Q:多角的に事業を展開し続けるモチベーションはどこからくるのでしょうか。

小山:基本的にはお茶業界の中では環境が揃っていないなと感じていて。新しい商品とか魅力的な商品は出てくるのですが、業界への入り方、エンタメとしての可能性、まだまだ形にはなっていないことがあり、伸び代しかないなと思っています。その環境をどうやったら整えられるんだろうということを考え模索しているんですが、それが楽しく、モチベーションに繋がっているのかなとは思っています。

日本茶をもっとカジュアルに、エンタメに。世界唯一の抹茶ラテアート大会

Q:抹茶ラテアート大会を始めるきっかけをお聞かせください。

小山:そもそも僕らが「Satén japanese tea」を始めたきっかけでもあるんですが、業界内外問わず抹茶ラテって「甘いもの」っていう認識があって。でもそれってきちんとした情報が行き交っていないなと思ったんですよね。

お店で無糖の抹茶ラテを提供するようになり、無糖の抹茶ラテの存在が少しずつ認知されるようになりました。必ずしも「抹茶ラテ=甘いもの」ではなく、無糖でも飲めるということ、この認知をさらに広めるための戦略を考えるようになったのがきっかけの一つです。

saten

もう一つ、自分たちで抹茶ラテを提供しているなかで、他にも自分たちでは考えつかないような淹れ方やレシピがあるんじゃないかと思うようにもなりました。

抹茶ラテの可能性を広げ、その情報を集約するという目的で誕生したのが抹茶ラテアート大会です。

Q:抹茶ラテアート大会は今までに何度開催されましたか。

小山:6回です。

Q:毎年何人ほどの出場者が集まるのでしょうか。

小山:例年、国内外から平均すると50-60名程度の申し込みをいただきます。

Q:抹茶ラテアート大会を開催するようになってよかったことはありますか。

小山:日本茶を探求する機会が生まれたことです。

抹茶ラテアート大会抹茶ラテアート大会の様子

ラテアートは、そもそも素材のことを知り尽くしていないと描けないんですよね。なので抹茶ラテアートでも「ラテアートに適した抹茶とは?」「スチームはコーヒーで使用するものと同じで良いのか?」そういったことをバリスタの方々が凄まじく追及し、コンペティションに臨んでくださいます。

追及・探求されれば、その分可能性は広がる。その機会を作れたのはよかったことだと思っています。

Q:コーヒーのラテアートと抹茶ラテアートでは難易度は変わるのですか。

小山:抹茶ラテアートってじつは抹茶に油分がないので絵が描きにくかったり、グラデーションがつくりにくく、とても難しいんです。

ラテアートの世界チャンピオンも最初は苦戦していました。

抹茶ラテアート大会真剣に抹茶ラテに絵を描く出場者たち

バリスタの方には抹茶ラテアートを追及していくなかで、抹茶ごとの違いなども学んでいただけますし、コンペティションを開催することによって飲み手(お客様)にも違いがあることを知ってもらう場にできるのです。

Q:抹茶ラテアート大会に使う抹茶は運営側が用意しているのですか。

小山:運営側で用意しています。京都・宇治の辻喜さんの抹茶をみなさんに配って使っていただいています。

Q:辻喜さんの抹茶を選んでいる理由をお聞かせください。

小山:宇治の地域では、辻喜さんが唯一抹茶を生産し、直接販売されていたことが大きな要因です。

国内外のバリスタの皆さまも「宇治抹茶」は知っていますし、品評会の受賞歴もあるので、ある意味「ホンモノ」の抹茶を知るには辻喜さんは相応しいと考えています。

サステナビリティやダイレクトトレードといった観点からも生産者が作った抹茶をそのまま使うということに価値があると僕は思っています。

抹茶ラテアート大会抹茶ラテアート大会の様子

ただ、今後はバリスタの選手自ら、コンペティションで使う抹茶を選んできてもらうというのもやってみるとおもしろそうだなと考えてはいます。

Q:小山さんにとって抹茶ラテアート大会とはなんでしょうか。

小山:エンタメですね。

どうやったら人に注目してもらえるのだろう、エンタメとしての楽しみに人を巻き込めるんだろうっていうことを日々考えています。

接点は仕込んだ。日本茶に関わる接点となる基軸を増やし、関わる人を増やす「小山流戦略」

Q:小山さんにとって、お茶とはどのような存在ですか。

小山:一言でいうと表現方法かなと思っています。

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結局「お茶を淹れる」というのも表現方法の一つかなと。僕は今ある「お茶」をどう使うかということに対し価値を見出しています。

Q:小山さんが描く将来に対し、現在はどのあたりですか。

小山:今はそのスタートラインにやっと立てたくらいだと思っています。

卸、飲食、イベント、メディア、の4つ事業がやっと揃い、今そこにお茶に関わる求人のサイトを作ったので、お茶業界でこういった人が求められている、こういう形だったら関われますという形を見せられるようになってきました。

Q:小山さんをはじめとする抽出舎が描く将来はどのようなものでしょうか。

小山:将来的には自分もお茶とどう関われるのか、関わりしろみたいなところを感じ、知ってもらうというきっかけが生まれる環境を整えたいです。

「Satén japanese tea」で日本茶を体験してもらう。

そこで日本茶に興味をもってもらい、家でも飲んでみてもらう。

そこから日本茶を家でも日常的に飲むようになる。

それぞれのお茶の違いに気づき、作り手であるお茶農家さんに興味を持つ。

お茶農家さんやお茶に関する情報を「Re:leaf Record 」で取得し、もう一段深く知ってもらう。

抹茶ラテアート大会を通してエンタメとして楽しめるお茶の形を業界内外に知ってもらう。

自分もお茶と関わる仕事をしたいと思ってもらい、「Re:leaf JOBs」から茶業界に入ってきてもらう。

そんな流れを作るための接点づくりはできました。

きっかけづくりの準備はできたので、次はこの環境をどう回遊してもらうかということを考えるフェーズになってきましたね。

Q:色々事業を展開されるなかで日本茶を取り扱う難しさは感じますか?

小山:魅力がある一方で日常に溶け込みすぎていて価値を伝えるのがとても難しいですし、業界内にはお茶へのあきらめムードがあるのも課題だと思います。

僕は、お茶って日本の縮図だなと思うんですよ。その壁をぶち壊していくというのはかなり難しいことですよね。

Q:これからの日本茶業界の未来はどんなふうになっていくと思うか。またどうなって欲しいですか。

小山:もっとお茶業界で一極集中になっていくのではなかろうかと思っています。

国内外で抹茶が注目を集めて、最近では海外でも製造されるようになってきました。

そんな中で、国内の茶業者が一丸となって日本ブランドとして価値を高めなければと思っています。

Satén japanese teaでお茶を淹れる小山さん
ただ僕としては、厳しくなる業界だからこそみな生き残りをかけるはずなので、それをバネに個性が生きたお茶が出てきて欲しいなと思います。

All Photos By 抽出舎

*1サードウェーブ
サードウェーブコーヒームーブメントのこと。2000年ごろにアメリカで始まり、2015年ブルーボトルコーヒーの上陸とともに日本でも一気に波及した。シングルオリジンをハンドドリップで丁寧に淹れるのが特徴。産地・生産者などに伴うコーヒー豆の個性を重視し、それを活かすために抽出方法もより工夫されるようになった。