《茶✕製法》日本初の燻製茶。海外でも評価が高まる衝撃の香り。パイオニアが切り拓く日本茶の新カテゴリー。【カネロク松本園/松本浩毅】

日本で生産されるお茶の半分以上が煎茶だ。しかし近年、煎茶の消費の落ち込みは大きく、抹茶や和紅茶、ウーロン茶などへの転換が進んでいる。 これまでのうまみ重視から、香りへと移行し、ウーロン茶や和紅茶など発酵茶への多様化が少しずつ進んでいるのがいまの茶業界の現状だ。 そのような中、燻製という製法に取り組んでいる生産者がいる。静岡県のカネロク松本園だ。 松本さんは中国茶にあるラプサンスーチョンという、松葉で燻製した紅茶からインスピレーションをうけ、燻製紅茶づくりをスタートした。 松本さんが燻製紅茶をつくり始めた当時は、燻製の日本茶は存在していなかった。まさに新しい日本茶のジャンルを生み出したのだ。いまでは10年以上、燻製茶の開発に取り組み、ウイスキー樽、桜、シナモン、カカオなどを使い、今は10種類以上の燻製茶を販売している。 松本さんの燻製紅茶は、2020年、農林水産省の海外輸出有望商品として選出、国際銘茶品評会でも銀賞を受賞。フランスを中心とした海外でも高い評価を受けている。 そんな茶業界において新たな製法「茶葉の燻製」を確立させた松本さんにお話をうかがった。 松本浩毅(まつもと ひろき) 1982年生まれ。41歳。静岡県島田市で家業としてお茶を生業としている。静岡県立農林大学校茶業科を卒業後に就農。趣味は仕事。四人の子とお茶の樹を育てている。 表現者として、自分らしいスタイルで唯一無二を日本茶で表現したい。そして生まれた国産初の「燻製紅茶」 国内初の燻製紅茶の生みの親、カネロク松本園の松本さん Q:カネロク松本園さんでつくられている燻製紅茶の特徴をお聞かせください。 燻製紅茶 松本:元々燻製紅茶を始めるきっかけとなった中国のラプサンスーチョンは燻製材に松を使うのですが、僕はラプサンスーチョンをつくりたいわけではなく、国産初である燻製茶で世界唯一のオリジナル商品を作りたいと思っています。なので色々な燻製材で燻製茶づくりに挑戦しています。 Q:お茶の木でも燻製に挑戦されたのですか? 松本:お茶の木も試してみましたよ。ただ、お茶の木で燻製したお茶は……何というかおもしろみに欠けていたので、今はつくってはいないです。 Q:そもそも燻製のお茶にフォーカスしようと思った理由はなんですか? 松本:じつは、別に燻製ではなくても良かったんですよ。 私は祖父や父が畑づくりをしているのを見ながら育ちましたので、これまでお茶以外の農作物を作ったり異業種に就くという考えを持ったことがないんですね。 ただ、お茶農家を自分の生涯の仕事として生きていくのであれば、自分のスタイルと言える何かしら人と違うものが欲しいなと思っていました。 「特徴的なお茶をつくりたい」という意味ではフレーバーティーが国内でも広まってきているのを見ていて、そういったお茶の楽しみ方も多様性があって良いと思っています。 […]

《茶✕窒素ガス》鎌倉発。窒素ガスでお茶を発泡!?ビールのようなポップな見た目で、魅せて広げるお茶の可能性【CHABAKKA TEA PARKS/三浦健】

「お茶✕窒素ガス」と聞いて、「茶葉の保存」を想像したら、きっとあなたは業界人だろう。 窒素ガスで発泡させた、見た目がまるでビールみたいなお茶「ドラフトティー」を日本で初めて提供したのは、鎌倉を拠点とするCHABAKKA TEA PARKS。CHABAKKA TEA PARKSでは、”おしゃれに楽しむ日本茶エンターテインメント”をコンセプトにお茶の新しい楽しみ方を提案している。 看板メニューの一つである「ドラフトティー」は、独自に研究を重ね、改良して作りあげた特製ビアサーバーから抽出し、クリーミーな泡とまろやかな口当たりが特徴だ。 茶葉はシングルオリジンと呼ばれる単一農園・単一品種にこだわって日本各地から厳選し取り揃えている。またタンブラーや茶香炉、Tシャツなどのアパレル、お茶を使ったオーガニックソルトやお茶漬けの素といった食品まで幅広い商品を展開している。 お茶の提供方法もドラフトティーの他にドリップティー、ラテやブレンドなど遊び心にあふれ、固定概念に囚われないやり方で、日本茶の可能性を感じさせてくれてる。 そして2号店とも言えるCHABAKKA LABORATORY +TEA お茶漬けスタンドを由比ヶ浜にも構えており、2024年には静岡県・熱海で鎌倉店の3倍の広さをもつ3号店もオープン。 CHABAKKA TEA PARKS の三浦健さんにお話をうかがった。 三浦健(みうら けん) 2009年、株式会社TOKYO BASE入社。 立ち上げメンバーとして創業年度から携わり、事業部エリアマネージャーとして店舗運営・商品企画・人材育成・新店舗の立ち上げなど幅広い分野で従事。 […]

《茶✕輸出》ハワイと日本の良さをブレンド。世界のトレンドにあったブレンドティーで日本茶を残していく挑戦【 Yunomi.life/Ian Chun】

日本茶2000年以降、世界的な抹茶ブーム等により、お茶の輸出は約30年ぶりに増加に転じた。また国内需要の減少を受け、国策としてもお茶の輸出促進が進められた。 その結果、この20年間でお茶の輸出額は16倍に増え、200億円を超えるまでに増加した。輸出への需要は、玉露をはじめとする高級茶と、加工用抹茶などの食品フレーバー(抹茶風味など)の原料茶に二分される。量と金額が目立つ加工用抹茶が話題になりがちななか、高級茶の輸出に地道に取り組んでいる人達もいる。その一人が、Yunomi.lifeのイアン・チュンさんだ。大学時代から日本文学を学ぶほどの日本好きで、すでに20年以上日本に住みながら、日本茶の輸出に取り組んでいる。 Yunomi.lifeで取り扱う日本茶は、1000種類を超え、300以上の生産者・茶商から直接買い付けている。しかも取り扱うお茶の生産者・茶商の情報をウェブサイト上で公開し、それぞれのお茶の紹介も丁寧に行なっている。そのため海外の日本茶好きから、Yunomi.lifeは高い評価を受けている。現在、量と金額が目立つ原料茶の供給は、アジアを中心とした国々でも生産が増えており、それらは日式茶(ジャパニーズスタイルティー)とも呼ばれている。これからも価格競争力のあるそういった国々の原料茶供給は増加するのは間違いない。日本茶の価値を一言で表現することはできないが、その価値を地道に丁寧に伝えながら、広め続けているYunomi.life。その運営者である株式会社MATCHA LATTE MEDIAの代表イアン・チュンさんに話をうかがった。 Ian Chun(イアン チュン) 株式会社MATCHA LATTE MEDIA代表取締役CEO。ハワイで生まれ育ち、2001年ブラウン大学卒業。2006年上智大学大学院卒業。ブラウン大学時代に日本文学の研究で1999年に留学生として来日し、同大学卒業後、日本に移住。株式会社ワコムにて消費者向け商品のマーケティングと通販事業を担当し、2010年から日本茶業界に挑戦。小規模生産者の海外展開支援事業として会社を設立し、2013年からYunomi.lifeを運営している。 日本茶を届けた国は90カ国! Q:イアンさんが運営する、Yunomi.lifeはどんなサービスですか? イアン:Yunomi.lifeは世界に日本茶の生産者、農家さんを紹介しています。オンラインショップも運営しており、日本茶の輸出事業も行っています。これまでに日本茶を90の国へ届けてきました。 Q:主な輸出国と、それとは逆にちょっと珍しい輸出国はどこですか? イアン:主な輸出先はアメリカです。珍しいところですと、フランス領リユニオン島やマヨット島、イギリスのケイマン諸島やシリー諸島、デンマーク自治領のフェロー諸島などでしょうか。 最近は中東からの問い合わせが多く、個人的にも注目している輸出先です。 Q:輸出先の国によって、反響が違ったりしますか? イアン:基本的にはあまり輸出先の国の反響やその違いに注目はしていません。Yunomi.lifeがターゲットとしているのは「どこの国の人」ではなく、「日本茶が好きな人」。ただ日本と海外の人では「日本茶が好き」の「好き」が少し違うなと感じます。僕が感じる違いは、日本語が読めるかどうか、そして日本食文化に囲まれて育ってきたかどうか、です。 日本を象徴する文化である日本茶を発信させたい。進化させたい。 Q:そんな海外へお茶を輸出しているYunomi.lifeを運営しているイアンさんですが、運営するにあたってのミッションはなんだとお考えですか? イアン:各産地の各種類・各品種のお茶を日本から全世界にお届けすることです。 […]

《茶✕エンタメ》抹茶ラテアートで、お茶文化にライブ感とエンタメ性を。お茶をもっとみんなのものに。【抽出舎/小山和裕】

「茶文化」というと、妙に重みを感じるのは、なぜか?「コーヒー文化」や「酒文化」とは、なにかちがう歴史の重みを「茶文化」という言葉は秘めている。この重みがお茶に魅力を与え、お茶を遠ざける一因でもあるだろう。今回ご紹介する小山和裕さんが実践する「茶文化」は、歴史の重みに鎮められた「茶文化」ではなく、ライブ感あふれるエンターテイメント性に富んだ「茶文化」だ。それが日本唯一の抹茶ラテアート大会「Japan Matcha Latte Art Competition(ジャパン マッチャラテアート コンペティション:以下、抹茶ラテアート大会)」である。日本唯一の抹茶ラテアート大会を運営している株式会社抽出舎の代表である小山さんは「生活の中に豊かさの選択肢をつくる」をミッションとし人々が日本茶との接点をより多く持てるよう、布石を打ってきた。 この大会の他にも東京・西荻窪では日本茶スタンド「Satén japanese tea」や日本茶情報メディア「Re:leaf Record」、日本茶業界の求人サイト「Re:leaf JOBs」など、日本茶に関する様々な事業を多角的に展開している。どうして日本茶との接点を一つでも多く作るのか、どうして「Japan Matcha Latte Art Competition」というあえて日本茶を取り入れた大会を運営するようになったのか。小山さんが考える戦略とはいかなるモノなのか。お話をうかがった。 小山和裕(こやま かずひろ) 株式会社抽出舎 CEO。日本茶スタンド『Satén japanese tea』オーナー茶リスタ。日本茶メディア『Re:leaf […]

《茶✕デザート》一日12名限定。お茶のデザートを五感で味わう感動体験に昇華させるカウンターデザート専門店。【VERT/田中俊大】

2000年代初頭の世界的な抹茶ブーム以降、今や抹茶アイスクリームや抹茶ラテ、ほうじ茶チョコなど、お茶はスイーツの風味(フレーバー)として定着した。それまで抹茶の生産は、京都・宇治と愛知・西尾に限られていたが、この20年で全国に広がり、2021年には、てん茶(抹茶の原料茶葉)の生産量は、鹿児島が京都を抜いて日本一となった。世界でもタイや中国で抹茶などの日本のお茶(日式茶)の生産が増えており、そういったお茶がフレーバーとして海外で使われるケースも増えている。今やお茶は、飲み物として以上に、フレーバーとして食べ物となり、生産も消費も世界じゅうに広がっている。一方、スイーツ全般のトレンドとして最近、デザートコース(スイーツコース)が人気だ。これはデザート数品で構成されたデザートのみが提供されるコースのことで、このデザートコースだけのカウンターデザート専門店も増えている。デザートコースで提供されるのは、食後の別腹のためのスイーツではない。盛り付けられたデザート一品一品を芸術として鑑賞し、五感で体験しながら、食する。そして、この2つの流れの合流点にあるのが、東京・神楽坂にあるVERT(ヴェール)だ。ここでは、日本茶を織り交ぜたデザートコースが体験できる。VERTのオーナーパティシエ田中さんが目の前で一皿ずつ創る旬の食材とお茶でつくるデザートは、食材としてのお茶の可能性を別次元に引き上げる。日本茶に魅了され、学び、創り、その可能性を発信し続けている田中さんにお話をうかがった。 田中俊大(たなか としひろ) 東京・神楽坂にある日本茶を織り交ぜたデザート専門店「VERT」のオーナーシェフ。都内パティスリーにて修行後、「janicewong dessert bar」にてスーシェフ、「jean georges tokyo」にてシェフパティシエ、「L’atelier à ma façon」 にてエグゼクティブシェフとして勤務。5年前に日本茶に出会い、2022年にVERTをオープン。日本茶の可能性をデザートを通じて発信している。 一日12名限定。日本茶を織り交ぜたデザート専門店[VERT] Q:[VERT(ヴェール)]はどんなお店ですか。 田中:日本茶を織り交ぜたデザート専門店です。 店内は、カウンター6席のみで一日12名様を限定で、「茶湊流水(ちゃそうりゅうすい)」のみを提供しています。 僕は、[VERT]がお客さんにとって、日本茶に対して「飲む」以外の可能性を少しでも感じ、見つけてもらえるようなお店でありたいと思っています。「茶湊流水」を体験していただくことで、日本茶の可能性を1ミリでも感じていただきたい。 そして[VERT]は、もし終わってしまったら、僕の人生も終わるなと思うくらい、僕にとっては「僕そのもの」です。 人、文化、様々なものをありのままに受け入れ、茶をもってもてなす「茶湊流水(ちゃそうりゅうすい)」 Q:デザートコースの名称「茶湊流水」にはどういった想いが込められているのでしょうか。 田中:スタッフと一緒に考えて、空行く雲や流れる水のように、深く物事に執着せず、自然の成り行きに任せて行動することを表す四文字熟語「行雲流水」になぞって作りました。 「茶」は日本茶。「湊」は人、もの、文化が集まる場所という意味があって。 […]

《茶✕ボトル》300円で3回も!フィルターインボトルを活用した朝しか買えない「朝ボトル」【mirume深緑茶房/松本壮真】

お茶は液体。飲むためには容器がいる。1990年、ペットボトル茶の発明から30年以上にわたり、ボトル入りのお茶の革新が続いている。それまでのお茶は、茶の間に座り、急須と茶碗で飲むものだった。しかしペットボトルの登場により、すぐにどこでもお茶が飲めるようになった。ペットボトル茶の革新は、ボトルでお茶を飲むことを当たり前にし、2007年にはワインボトル入りの高級茶、2012年にはボトル内で茶葉を抽出するフィルターインボトルが発売され、ボトルのお茶の幅がさらに広がった。そして、今回ご紹介するmirume深緑茶房では、ボトルのお茶を活用した新サービス「朝ボトル」を提供している。「朝ボトル」は、平日朝8〜10時、店先を通勤・通学する顧客に、フィルターインボトルの淹れたてのお茶を提供し、帰宅時に飲み終わったボトルを店舗へ戻してもらうというサービスだ。これにより、ボトルのお茶にも関わらず、淹れたてのフレッシュな香りと味わいを楽しむことができ、使い捨てペットボトルのゴミ問題も発生しない。また一度飲みきっても3回まで水を注ぎ直して飲める。店舗側にとってもお客様の来店頻度を上げることができるのもメリットだ。今回フィルターインボトルを活用し、新たなボトル茶の可能性を切り拓いたmirume深緑茶房の松本壮真さんにお話をうかがった。 松本壮真(まつもと そうま) 日本茶専門店「mirume」の店主、日本茶農家3代目で日本茶インストラクターです。日本茶農家に生まれ『次の世代に日本茶を繋いでいきたい』と考える一方で、60代以上が約60%の消費量を担う日本茶業界に危機感を抱いています。 「mirume」とは日本茶業界の言葉で「若い芽」「上質な芽」を指します。名古屋市の那古野で、品質の高い日本茶を幅広い世代に楽しんでいただけるお店づくりに努めています。 購入できるのは朝8時〜10時!朝買って夕方に返却する、ユニークなサービス「朝ボトル」 Q:[mirume深緑茶房]朝ボトルのサービスについて教えてください。 フィルターインボトルをまるまる1本レンタルすることができる 松本:朝ボトルは本格的な日本茶のテイクアウトサービスです。 朝の8時〜10時の時間帯だけ、茶葉と水が入ったフィルターインボトルを1本300円でレンタルという形で販売しています。そしてフィルターインボトルは、夕方に返却していただいています。 Q:朝ボトルの日本茶はお水を継ぎ足せば何度でも飲めるのでしょうか? 松本:そうですね。お水がなくなったら継ぎ足していただき、3回くらいは飲めますね。 Q:フィルターインボトルが返却されない、なんてことはないのでしょうか? ありがたいことに、ほぼ100%返却していただけています。でもテレビなどのメディアに出演したりすると、下手すると1/4くらい返却されないことはありました(笑) 基本的には通勤客の方が購入してくれる方が多いのですが、毎日通勤で店の横を通るからこそ、返却率が高いのではないかなと思っています。 Q:「朝ボトル」はやはり朝にボトルを売るから朝ボトルという名前に? 松本:じつは、当初は「ボトルパス」という名前でサービスを展開しようと思っていました。 ボトルの定期券という意味でボトルパス。ボトルに入った日本茶のサブスクリプションみたいな形のサービスで考えていました。 お世話になっているデザイナーさんに新しく始めようと思っていた、ボトルパスの相談をしたんです。そのとき「サブスクっていうのは、そもそも習慣になっている人がその習慣を強化するために使うものであって、日本茶を普段飲まない人に届けたいならまずは単発で届けた方がいいんじゃない?」とアドバイスをいただいたんです。 そのときに、確かにおっしゃる通りだなと思って。 そこで、朝だけフィルターインボトルに入れて提供するから「朝ボトル」という名前にしようとなりました。 Q:1本300円という価値。これは正直高い?それとも安いと思いますか? […]

《茶✕ロボティクス》農業の機械化、ロボティクスでお茶の生産現場はどう進化する?スマート農業の最先端【堀口製茶/堀口大輔】

現在、全世界で生産されるお茶は600万トン以上。この10年、毎年10万トンずつ増加している。そのうち日本で生産されるお茶は約7万トン。つまり日本茶は、世界のお茶の生産量のわずか1%程度だ。わずか1%だが、日本には他国に類をみない茶道や煎茶道といった茶文化、急須や湯沸かしポットといった茶器がある。そのような日本だけで培われ、高められた発明や革新、文化は、お茶の生産現場にもある。その一つが、お茶の収穫で活躍する乗用摘採機だ。この100年の間に日本でのお茶の収穫は、手摘み、手鋏(てばさみ)、可搬式摘採機、そして乗用摘採機へと変化してきた。世界では未だに手摘みが主流の中、1980年代後半より日本では乗用摘採機が収穫の主役へと移行し、収穫の効率は手摘みの数百倍になっている。今やスマホが一人ひとりの手にあり、ドローンが飛び、自動運転のクルマも目前となっている中、農業機械はどのように進化していくのだろうか?鹿児島県志布志市で、国内最大級の茶園面積を管理する堀口製茶では、かつてより茶生産の現場での機械化に取り組んできた。自社開発の機械だけでなく、国の研究機関等とも協力し、収穫ロボットとも言える無人摘採機の研究にも参画している。今回は、茶✕ロボティクスの最前線にいる、堀口製茶代表取締役・堀口大輔さんにお話を伺った。 堀口大輔(ほりぐち だいすけ) 鹿児島堀口製茶 代表取締役社長/和香園 代表取締役社長1982年鹿児島県志布志市生まれ。大学卒業後、静岡県でお茶メーカーに入社。4年間従事し2010年4月帰郷し、父親が社長を務める鹿児島堀口製茶/和香園に入社。2018年7月、同社代表取締役副社長および和香園代表取締役社長に就任。日本茶インストラクターの資格を持つ。茶畑面積は300ha(うち自社管理茶園120ha)。 日本の茶業を最前線で牽引する堀口製茶とは。 Q:堀口製茶の事業内容について教えてください。 弊社は、生葉の生産から仕上げ加工(二次加工)までを行う堀口製茶と、仕上げた茶葉を卸・小売販売する和香園があります。 和香園は、鹿児島県内5ヶ所の実店舗とオンラインショップがあります。 そのほかに[創作茶膳レストラン 茶音の蔵(さおんのくら)]と「お茶農家が提案する、新しいお茶の文化」をコンセプトにした茶空間[大隅茶全(おおすみさぜん)]があります。 その他にも自社の茶葉を使ったコンセプトブランド「TEAET(ティーエット)」やシングルオリジンに特化した「カクホリ」もあります。 いかに広大な茶畑と大きな工場があるかがよくわかる堀口製茶としての工場受入面積は300haあり、300haの茶園面積のうち、120haは自社で管理し、残りの180haは42軒の系列農家さんが管理してくださっています。 系列農家さんの形は大きく分けて2つあり、生葉農家として、生葉を弊社の荒茶工場に持ってきてくださる場合と、ご自身の茶工場で製造もしつつ、私たちの工場へも生葉を持ってきてくださる場合の2つがあります。 最近の厳しい市況により、ここ数年、自社工場での製造をやめて、生産した生葉を全量持ってくるという選択肢を取られている農家さんもいらっしゃれば、引き続き、自分たちの工場をやりつつも、弊社に生葉を持ってくるというハイブリッドな選択肢をとっている農家さんもいらっしゃいます。堀口製茶では、系列農家さんのニーズに合わせてできる限り対応しています。 堀口製茶と一緒に志布志を支える系列農家のみなさんQ:堀口製茶グループは、お茶の生産だけでなく、茶葉の小売やレストランまでやってらっしゃいますよね。 堀口:そうですね、ワイナリーのような場所をイメージしていろいろやっています。 今から30年以上前の1989年、お茶の生産の堀口製茶と、お茶の小売の和香園の2社を同時に法人化しました。当時、お茶の生産農家が小売の販売会社も展開するというのは、かなり珍しかったと思います。 ただ、ご存知のとおり時代の流れとともに茶葉単体の需要が減ってきております。 そこで堀口製茶グループとしても「お客様にお茶を表現する場」を創っていかなければならないと思うようになりました。 創作茶膳レストラン […]

《茶✕新規就農・6次化+α》茶畑から茶室まで、産業から文化まで背負って立つ大志と行動。カルチャープレナーが進める茶業界と茶文化の再起動。【TeaRoom CEO / 岩本涼】

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「ピカソとゴッホ」 この偉大な芸術家の二人は、対照的だ。 ゴッホは生涯で2000点もの作品を残したが、生前に売れた絵は、たった一枚。その価格は400フラン(現在価格に換算して十数万円)、一生貧乏だった。対してピカソは15万点以上の作品を残し、芸術家として経済的にも成功し、晩年には7500億円以上の資産を築いた。 この逸話は、芸術と経済、バリューとマネタイズの文脈でよく引き合いに出される話だ。 需要拡大が叫ばれる茶業界は、生産の現場から茶室に至るまで、業界全体がゴッホとピカソの話のように、その価値(バリュー)が十分に換価(マネタイズ)されない状況が続いている。 つまり、茶畑から茶道に至るまでの茶業界全体、ひいては日本文化全体が「価値の塊」なのに、換価されぬまま、「武士は食わねど高楊枝」を続けている。 このような現状を憂い、立ち上がったのが株式会社TeaRoom代表取締役の岩本涼さんだ。岩本さんは、9歳で茶道に魅了され、大学在学中の2018年、お茶で起業。現在、東京に拠点を持ち、静岡に茶畑と製茶工場、京都・金沢などにも活動拠点を広げ、世界を飛び回る。 茶畑→茶室、茶生産→茶文化に至るすべてを統合して担う岩本さんたちの活動は、現在の茶業界全体、日本文化全体が抱える価値(バリュー)を十分に換価(マネタイズ)できない暗闇に輝く太陽だ。 岩本さんたちの大志と思考と行動は、常人の理解をはるかに超えており、正直難解だ。しかしその大志と思考が徐々に形となり、岩本さんたちへの期待と評価も高まっている。カルチャープレナー(文化起業家:カルチャーとアントレプレナーを掛け合わせた造語)として、今日も世界を飛び回る岩本さんにお話をうかがった。 岩本涼(いわもと りょう) 1997年生まれ。茶道裏千家にて岩本宗涼(準教授)を拝命。21歳で株式会社TeaRoomを創業。静岡県に日本茶工場を承継し、第一次産業へも参入。「Forbes 30 Under 30 Asia 2023」選出、株式会社中川政七商店の社外取締役、一般社団法人文化資本研究所代表理事。 「人々が豊かに生きるために蓄積してきたもの」を体験するためのツールの一つ、それが茶道であり茶室である。 Q:まず最初に岩本さんのことを教えていただけますか。 岩本:現在、株式会社TeaRoom(以下、TeaRoom)の代表取締役であり、茶道裏千家の準教授も務めております。 TeaRoomのオフィスへお邪魔した際、お茶を淹れてくださった岩本さん 僕自身は社会が求めるものの中で、自分ができる、もしくはできる可能性のあるものに対して全力で向き合っている人間です。 […]