《茶✕アルコール》お茶割りを国民ドリンクに!100種類のお茶割りと日本お茶割り協会で、ハイボールに続くのはお茶割りで決まり!【日本お茶割り協会代表理事/多治見智高】

今やハイボールは居酒屋の定番メニュー。

ハイボールの躍進は、2008年より始まり、それに伴い、ウイスキーの消費量もV字回復。もちろんコロナによる踊り場があるものの、ハイボールに続いたのがレモンサワー。2016年頃からレモンサワーは、「低糖質」「昭和レトロブーム」を背景にブームの兆しを見せ、定番になりつつある。そしてハイボール、レモンサワーに続く、サードウェーブとして「お茶割り」に照準を合わせている人達がいる。

「お茶割りのパイオニア」と言われる、多治見智高さんたちだ。

「お茶割り」とは、アルコール飲料をお茶で割った飲み物の総称で、ウーロンハイや緑茶割りなど様々な種類が各地で飲まれている、「おじさんドリンク」だ。

多治見さんたちは、2016年、その名も「茶割」という居酒屋を開始し、100種類のお茶割りの提供を開始。2021年には、一般社団法人 日本お茶割り協会も設立。お茶割りで「お茶」✕「アルコール」の可能性を広げている多治見智高さんにお話を伺った。

多治見智高(たじみ ともたか)
1990年、東京生まれ東京育ち。幼少期に近所のお茶屋さんの店頭でグリーンティーを飲んだのがお茶との出会い。少年期に家庭で日常的に飲んでいたのは抹茶入り玄米茶。慶應義塾大学を卒業後、デザイン会社、広告会社などを経て、2016年に学芸大学にて100種のお茶割りを看板メニューとする酒場「茶割」を開店。お茶割りを国民的ドリンクにまで消費拡大するべく、一般社団法人日本お茶割り協会を設立、代表理事をつとめる。

お茶割りを国民ドリンクに。

Q:最初に多治見さんが取り組んでらっしゃる事業について教えてください。

多治見:僕自身は肩書きが二つあり、一般社団法人 日本お茶割り協会の代表理事と[茶割]を経営する株式会社サンメレ(以下:サンメレ)の代表取締役です。

茶割・多治見さん今回お話を伺った多治見さん(photo by Misako Yoshida)
サンメレの主な事業内容は、飲食店経営ですね。今は[茶割]を東京の目黒と学芸大学に2店舗、茶葉のBtoBとBtoCのためのお茶屋[五本木茶舗]と隠れ家的なレストラン[wacasu]を学芸大学でやってます。

茶割種類豊富な料理と共に100種類のお茶割りを楽しめる[茶割](photo by Sang-mêlé)
五本木茶舗同じ建物にある五本木茶舗(1階)とwacasu(2階)。五本木茶舗では写真のような日本茶と菓子を楽しめる(photo by Sang-mêlé)
茶割[茶割]目黒店(photo by Sang-mêlé)

日本お茶割り協会は、2021年に立ち上げました。

Q:日本お茶割り協会はどのような目的で立ち上げたのでしょうか。

多治見:お茶割りをもっと広めて国民的ドリンクにするためです。

日本お茶割り協会日本お茶割協会のホームページ(photo by 日本お茶割協会)
度々飲食店さんなどからもお茶割りの監修、メニュー開発をしてほしいというご依頼をいただいていて。同じ飲食店である[茶割]が監修という形よりも、お茶割りを広めることに特化できる別の形が欲しかったんです。

Q:多治見さんはどうしてお茶割りに注目されたのですか。

多治見:2014年にレストランをはじめてから、2年後の2016年には人員が充実してきたこと、1軒目を一緒に立ち上げたシェフと、3年以内には二業態目のお店をオープンするという約束もありコンセプトのある2店舗目をつくろうと思っていました。そこで色々考えた結果お茶割りに辿り着きました。

当時の流行りはレモンサワーとハイボール。この流れの次に来るのは、梅干しサワーか、トマトハイか、お茶割りかなと思ったんです。

Q:そこでお茶割りをコンセプトにしようと思った決め手はなんだったのでしょうか。

多治見:一つは僕が育ってきた家庭の影響ですかね。幼少の頃から、家では急須で淹れたお茶を飲んで育ってきたので、僕にとっては馴染み深いものだったのです。

多治見さん幼少期お茶を家で飲んでいた記憶があると話してくれた多治見さんの幼少期(photo by Sang-mêlé)
もうひとつは、雑誌です。若い女性向けの雑誌って、だいたい3〜4年に1回は日本茶特集を組むんですよ。みんながネクストアルコールを求めている流れと定期的に必ずやってくるお茶ブームの流れが2019年くらいにぶつかるんじゃないかなと思ったんです。

雑誌取材時に見せていただいた[茶割]が取り上げられた雑誌(photo by 国際日本茶協会)
結果的には奇しくもアルコールに先立ってタピオカブームが2018年に到来したことにより、お茶が注目され、お茶割りのメディア掲載が2019年ごろには増えました。いい流れがきていると感じましたね。

Q:[茶割]には100種類ものお茶割りがありますが、どういう意図があったのでしょうか?

多治見:[茶割]を始めるにあたって、ベンチマークしていたのがレモンサワー、ハイボールでした。

茶割[茶割]でいただけるお茶割りたち(photo by Sang-mêlé)
当時のレモンサワーって、各店が「究極のレモンサワー」というのを目指す風潮がありました。レモンサワーはレモンと炭酸なしでは、“レモンサワー”にならない飲み物です。なのでレモンを凍らせたり、生搾りにしたり、各店がレモンと炭酸を使わなければならないという制約のもとで「究極のレモンサワー」づくりをしていました。

茶割メニュー100種類のお茶割りが書かれている[茶割]のメニュー(photo by Sang-mêlé)
一方で「お茶割り」は、“お茶”も“割り(お酒)”も規定している意味がかなり広い。そこで、ウイスキーがたくさんあるウイスキーバーのように、幅を表現するのが良いと考えました。

いっぱいあるという状態を表現する仕掛けが必要だと思い、

「10種類ではいっぱいとはならんな…」

「1000種類はオペレーション上、難がありそう…」

「100種類であればいっぱいありそうと思ってもらえるし、10種類のお茶と10種類のアルコールで表現できるのではないか!」と思い至り、10×10の方式が生まれました。

Q:どのような基準で10種類のお茶とお酒を選んでいるのですか。

多治見:[茶割]を始めた当初、僕はお茶に詳しくなかったので、学芸大学にある町のお茶屋さんに頼み、お店で取り扱う10種類をどれにするか相談させてもらいました。

[茶割]開店当初の2016年当時は、僕たちのお茶に対する解像度が粗かったんです。「煎茶は煎茶しかない!」と思っていたようなレベルでした(笑)

でも当時から変わらないこととして、お茶割りはお茶とお酒を混ぜて提供するので、「100種類のお茶割りを飲み比べた時、明確な違いが分かるようにする」ということをそれぞれのお茶やお酒を決める上での基準のひとつにしています。

多治見さん静岡・富士山まる茂茶園にて、在来種のチャノキから冬のお茶をつくるために採ってきた枝から葉を外している多治見さん(photo by Sang-mêlé)
その後、経営していくなかで、仲良くしてくださるお茶屋さんが増え、解像度が上がっていきました。今では「この品種のこの感じのお茶とこの品種のこの感じのお茶だったら、違いを分かってもらえるよね」という判別がつくようになりましたね。

Q:[茶割]は、当初から順調でしたか?

多治見:[茶割]を始めた一年目は軌道に乗せるのが大変でしたね。そもそも呼び方も「ウーロンハイ」「お茶割り」など色々ありますし、ハイボールやレモンサワーがあるお店でもお茶割りは取り扱っていないというお店も当時はたくさんありました。「お茶割りってなんやねん?」っていうところからのスタートでしたね。

[茶割]で提供する価値は、「おいしい」より「たのしい」

Q:日常的にお茶を飲んでいる人にお茶割りをおすすめするとしたら、どのお茶割りを飲んでほしいですか。

多治見:「家では日常的に急須でお茶を淹れています」とか、「三煎目まで飲めるお茶が好き」という方には、逆に[茶割]では、青いさんぴん茶やミルクフォームが乗っているお茶といった、ある種カジュアルダウンしたお茶割りが、新たな発見があって楽しんでいただけると思います。

社員にも日頃から伝えていますが、[茶割]で提供する価値は、「おいしい」ではなく「楽しい」なんです。「おいしい」はとても主観的です。その人の好みによって変わってきますよね。もちろんお茶割りをつくり、提供する側としては「おいしい!」と思ったものをお出ししていますが、それはぼくたちが本質的に伝えたい価値ではありません。[茶割]ではお茶を色んな形で割ったドリンクとして楽しんでもらえればと思っています。

青いさんぴん茶バタフライピーを使った深い青色のお茶割りは「青いさんぴん茶」(photo by Sang-mêlé )
チャイ和紅チャイ×カシス(photo by Sang-mêlé)

ボリュームゾーンであるカジュアル層を牽引する存在になる

Q:多治見さんが[茶割]で大切にされていることはなんですか?

多治見:たくさんありますが、ひとつはお茶の消費者のなかでカジュアル層を牽引できる[茶割]という存在になりたいと思っていることです。

多治見さんお茶を淹れる多治見さん(photo by Sang-mêlé)
まだ[茶割]を始めたばかりでたいして大きなこともできていない頃から、「お茶割りのパイオニア」という呼び名をいただけていました。それをいただいたことにより、「自分は引っ張っていく立場になったほうが良いのでは?」と思うようになり、きちんとお茶について勉強するようになりましたね。

多治見さん(photo by Misako Yoshida)
[茶割]を始めた当時も今もですが、お茶割りが提供されるお店には、カジュアルにペットボトルのお茶を使ってお茶割りを提供するお店もあれば、きちんとした世界観と完成された空間に座って、ゆっくりとお茶を三煎目まで楽しむようなオーセンティックな雰囲気でお茶割りを提供するお店があります。しかし、このカジュアルとフォーマルの間に大きな空白があり、中間であるカジュアル層がまだまだ少ないです。

[茶割]や日本お茶割り協会を通して僕は、本来もっとお茶の消費を生むことができるはずのカジュアル層を増やす牽引役になりたいと思っています。

Q:[茶割]で提供されるお茶割りに使うお茶はどのように抽出されていますか。

多治見:それぞれバラバラです。

お茶割り(photo by Sang-mêlé)
ただスタッフには、「4つの数字は必ず守ってね」と伝えています。「茶葉の量、水の量、水の温度、抽出時間」の4つです。それぞれの茶葉ごとにレシピがあるので、この4つの数字さえ守っていれば、基本的には失敗しません。

Q:五本木茶舗は自宅でお茶を飲んでもらうためのお茶屋さんという位置付けですか。

多治見:そうですね。五本木茶舗をあえて喫茶店やバーみたいなしつらえにしなかったのは、自宅でお客様が淹れ方をふくめ再現できるようなお茶の売り方をしたいという思いがありました。

「本当は誰でも家で手軽にお茶って淹れることができるんだよ」ということを伝えたいと思っています。

BtoB向けとしては、居酒屋さんやバーにお茶割り用の茶葉を卸したりもしていますが、BtoC向けには家でお茶を飲みたいと思ったときに頼りになれる存在になれるといいなと思っています。

めざせハイボール!お茶割りを国民的ドリンクに!そのために組織した日本お茶割り協会。

Q:多治見さんがベンチマークにしているものはありますか。

多治見:圧倒的にハイボールですね。

日本唐揚げ協会日本お茶割り協会が参考にしている日本唐揚協会のサイト(photo by 国際日本茶協会)
ただ、日本お茶割り協会として、協会の動き方の参考にしているのは「日本唐揚協会」です。この「日本唐揚協会」は、唐揚げを国民食と定義し、その存在意義に目を向け、からあげ祭やからあげカーニバルなど唐揚げの魅力を伝えるイベントやウェブ上での情報発信を行ない、その美味しさを人々に伝えることができる人材育成(唐揚げ検定やその合格す者であるカラアゲニスト)に力を入れています。

そういった観点を持ちながら、ローソンのLチキとコラボを仕掛けていたり、かなり大きく、広く活動されています。そんな協会のようになるのが今のところの目標です。

Q:将来のビジョンからみて、お茶割りは現状、どのくらいの位置にいますか。

多治見:まだまだ全然だと思っています。

多治見さん(photo by Misako Yoshida)
正直、お茶は淹れるにあたってのパラメータが多すぎる。

ですので「お茶に詳しくないし、ふだん自分でお茶淹れて飲まないしな……」という居酒屋店員がつくるお茶割りの品質を全国的に整えていく作業は、相当大変だと思っています。むしろ、そういった点ではペットボトルのお茶を使ったお茶割りを流行らせる方が先だとさえ思っています。

今年は、そもそものお茶割りの認知拡大に先に注力する年にしようと思っています。お茶割りの認知拡大をしなければ、その先にある消費拡大には繋がらないですからね。

Q:お茶割りを広めるために日本お茶割り協会を立ち上げたとのお話でしたが、いかがですか。お茶割りを広めやすくなりましたか。

多治見:良い流れはきていると思います。

Q:お茶割りのレシピ開発などの相談は増えていますか?

多治見:増えていってる感じはありますが、うなぎ登りではないですね(笑)

多治見さん(photo by Misako Yoshida)
ただ、4年ぐらい前はお茶割りに興味を持ちつつも一歩を踏み出す人がいなかったんですが、最近はお問い合わせフォームから問合せてくださる人が増えてきたような感覚はあります。

Q:[日本お茶割り協会]のミッションをお聞かせください。

多治見:「お茶割りを国民的ドリンクにする」ということですね。

お茶割りがハイボールのような存在になってほしいと思っています。そのためには僕がお茶割りを広めていくというのがミッションだと思っています。

(photo by Misako Yoshida)
ハイボールは、バーでも寿司屋でも、概念としては同じ商品なのに、違うレイヤーの飲食店で提供されるものとして存在していますよね。お茶割りもそんな存在にしていきたいと思っています。

全国でいわゆる“イケてる”「お茶割り」を広めたいです。
ただどこか一つの酒蔵・酒造の方々だけの力では、ハイボールのような存在になるのは難しいと思っています。ですのでお茶割り文化をつくり、広めるために関わる多くのプレイヤーと一丸になって動いていけるといいなと思います。

そういう意味でも日本お茶割り協会を機能させていきたいと思っています。

日本茶を気軽に、こだわれるものに。

Q:多治見さんにとって日本茶とはどのような存在ですか?

多治見:もっと日常のなかで近くに置いておきたいものですね。

日本茶のように「日本の伝統文化」と言われているものって意外と歴史が浅いのに、歴史のあるものだと捉えられているとか、事実とは多少なりとも異なるイメージをもたれているものが多いと思っています。そのイメージが良い方向に作用しているものもありますが。

例えばお正月に無病息災などを祈念するために行く初詣。じつはこの風習の誕生は明治中期です。元は鉄道会社の施策として始めましたが、今となっては日本人の風習となって根付いており、お正月に初詣することにより新年の始まりを感じますよね。

その観点では、日本茶は「なんか難しそう」みたいなイメージがついてしまっていますよね。一方で休憩所の給茶器のような無料のイメージもあったりします。これはもったいないなと思います。本来、その辺に生えている茶の木を番茶にして飲んでいたというような話だっておもしろいのに、多くの人はそういったことを知らない。

お茶って由緒正しい日本の文化でしょ、というイメージを持っている方があまりにも多いなと感じているのですが、そうではなくもっと現代日本の生活に寄りそう存在としての「お茶」という位置付けであってほしいと思っています。

Q:日本茶を取り扱う難しさがあればお聞かせください。

多治見:日本茶は面倒臭いと思われていることが多すぎますよね。もう少し簡単にしたいですよね。

お家でコーヒー豆から挽いてこだわっているような方って一定数いますよね。あの感じで日本茶を楽しむ人を増やしたいんですよね。ただ、日本茶の方がコーヒーと比べると失敗する箇所が多いので、難しいとも思っています。特に日本茶こと緑色のお茶に関しては淹れる工程において面倒なことが多すぎる。

多治見さん(photo by Misako Yoshida)
最近あった体験談ですが、五本木茶舗でお茶を試飲して購入してくださった方が「試飲した味と家で淹れた味が全然違う」とおっしゃっていたんですね。詳しく淹れたときの状況を聞いてみると「確かにそれでは茶葉はひらかんな……」と。

お客様は「いや、でもコーヒーはお湯かけて、蒸したら抽出できるのに」とおっしゃっていて、確かにそうだよなとも思いました。お湯の温度や量、抽出時間によって味がかなり変化してしまうのは日本茶の特性なので変えられないとは思いますが、そこを人々にとって“気軽にこだわれるもの”みたいな存在にしたいです。

Q:茶業界のこれからの未来はどんなふうになっていくと思いますか。またどんなふうになって欲しいですか?

多治見:正直このまま「難しいもの」扱いになると、シンプルに消費量が下がっていくだけだと思います。この打開できない状況が数十年つづいていると思うので、消費量が下がっていくという状況は、今後も続く課題だと思います。

酒場での消費という観点では新しい面ができていると思うので、我々は酒場で日本茶の消費を増やしていきたいです。