《茶xCSA》「茶畑オーナー制度」で、お茶を飲む人と共にお茶の木を植え、草を取る。ファンと支えあう茶業の喜び【足久保ティーワークス】

CSAという言葉を聞いたことがあるだろうか?

CSAとは、Community Supported Agricultureの略で「地域支援型農業」と訳される。

農業には、天候や病害虫による不作、台風などの災害、資材・燃料の高騰、市場の価格変動といったリスクがあり、通常それらのリスクすべてを農家が負担する。消費者や卸先が、農産物を購入してくれるまでの期間、つまり植える〜育てる〜収穫〜出荷までの半年から一年のあいだ、農家は一円の収入もない。当然のことだ。しかしこの「当然」が、農業の初期投資を上げ、キャッシュフローを悪くし、経営をハイリスクにする。

「当然」、新規就農者が減り、年金がもらえる(定期収入がある)高齢者だけが農業を続けられる現状に行き着く。

CSA(地域支援型農業)は、そういった農家が抱える経営上のリスクを消費者が共有する仕組みだ。1980年代に米国で始まり、欧米などで広がっている。2000年代以降、日本でも取り組み事例が少しずつ増えている。

持続可能な農業の理想形といえる、消費者と生産者が支えあうCSAを「茶畑オーナー制度」という形で、2021年より実践する足久保ティーワークスさんにお話をうかがった。

足久保ティーワークス
「静岡茶はじまりの地」の足久保で活動するお茶が大好きな茶農家集団。
足久保のお茶を未来に繋いでいきたいとの想いから「はじまりの紅茶」をつくりました。
足久保の茶農家だからこそできるこだわりの製法でひとつずつ大切に商品にして届けています。
「お茶の魅力をお客様に直接お伝えする」をモットーに、茶摘み体験や工場見学のイベント、茶畑テラスカフェの運営、全国各地へポップアップストアとして出店しています。

生産者と消費者がお互いに支えあう仕組みづくりに取り組む[足久保ティーワークス]

Q:[足久保ティーワークス]が取り組む事業について教えてください。

北條:「自分たちが育てて作り上げたお茶を自分たちで魅力を伝えながら販売していく」ということをモットーに、お茶の生産から販売まで一貫して行っています。茶畑でのお茶の生産から製茶、テラスカフェ「はじまりの紅茶」やイベントの運営、オンラインショップ、さらには「茶畑オーナー制度」も行っています。

運営メンバーとしては、荒茶工場全体の運営に携わっている正組合員が6名、生産農家さんである準組合員が約20名で構成されています。茶園のこだわりやどんなお茶を生産していくかを試行錯誤しています。

Q:[足久保ティーワークス]のメンバーはどんな人たちですか?

北條:地元が大好きな茶農家とお茶が大好きなスタッフたち、モチベーションの高い仲間が集まっています。

足久保ティーワークス足久保ティーワークスの皆さん
足久保の茶農家メンバーがほとんどですが、「お茶が好きで自分たちのお茶を自分で売っていきたい」という志に共感したメンバーが各地から集まってきています。北海道出身のメンバーもいます。

ステータスではなくファン作り。3年続けてきた茶畑オーナー制度の次なる構想とは

Q:茶畑オーナー制度とはどのような制度ですか?

北條:茶畑オーナー制度は、日本茶にはどんな種類があって、どういうふうに管理されて、どう製茶されていくのかなど、日本茶のことを知ってもらい、日本茶のある生活を愉しんでいただきたいという想いから、2021年に始めた制度です。2023年が3年目で、現在の加入数は約150名です。

2023年度までは、茶畑のオーナーさんとして、18,000円/年のご支援をいただき、代わりにその茶畑でできた日本茶を年4回お届けしたり、お茶の工場見学やお茶摘み体験、草取りや肥料撒き体験を提供したりといった制度でした。また「マイ茶の木プラン」という日本茶の苗を自分で植える体験ができるオプションもありました。

茶畑オーナー茶畑を訪れるオーナーの方々
しかし、始まって3年、加入数が横ばいということもあり、いまは制度の見直しをしているところです。これまではステータス、支援的な意味合いが強かったのですが、お茶の木オーナーで足久保茶のファンみたいな形にしていきたいなと考えています。

なので、僕たちと一緒に日本茶を育て、つくった日本茶を飲み続けていただいたり、一緒にペアリングを楽しみながら、日本茶のある暮らしを愉しんでもらえる仕組みを考えています。

ペアリング

そのために日本茶を提供するだけでなく、日本茶を使ったお菓子や、淹れるための茶器を用意したり、淹れ方をレクチャーしたりなど、日本茶の魅力をトータルしてお伝えしていくことで、他にはない日本茶の価値を感じていただきながら楽しんでもらえる「はじまりの紅茶」のファン作りをしていくのが来年度からの新しいオーナー制度ですね。

Q:日本茶のファンづくりの一番の魅力は何ですか?

足久保ティーワークス

北條:土づくりから栽培や製茶を数年先まで見据えて行い、こだわって大切につくりあげた日本茶の価値をお客様に知ってもらい、その結果お客様に喜んでいただける、というのが一番の魅力です。

製造から販売まで一貫してできる6次産業ってとても素晴らしいものだと思っています。伝わらないことも多々ありますが、その分、自分たちが伝えたいことがちゃんと伝わったときの喜びは、ほかの仕事の比じゃないなと。人生の、というとちょっとオーバーかもしれないですが、6次産業の醍醐味だと感じています。

Q:「はじまりの紅茶」について教えてください。

はじまりの紅茶

北條:僕たち、足久保ティーワークスが一丸となって育て、つくった紅茶を「はじまりの紅茶」というブランドにしました。

「はじまりの紅茶」や、その他自分たちでつくったお茶のこだわりを伝えるためには、対面販売やオーナー制度を通して“知ってもらう”ということが大切だと思い、7年前からカフェを始めたり、最近では首都圏での催事に出店したりしています。

カフェはお客様に「テラスで茶工場や茶畑を眺めながらお茶を楽しんで欲しい」という想いをこめ「テラスカフェ」という名前にしました。

足久保ティーワークスでは「はじまりの紅茶」や日本茶の良さを知っていただけるように様々な取り組みをしておりますが、最終的にはみなさんにお茶を日常的に飲んでいただけるようになると良いなと思っています。

Q:足久保ティーワークスはどういった層をターゲットとしているのでしょうか。

北條:若い方を中心に「今日はこの紅茶にしよう」とか「おはぎがあるからこの深蒸し茶を合わせよう」など嗜好品としての需要が高まってきていると感じています。

そのため、僕たちは若い方を中心とした、日本茶に触れる機会の少ない方に新たに日本茶の魅力を伝えていきたいです。

Q:[足久保ティーワークス]で販売している日本茶の中では、「はじまりの紅茶」の売上が圧倒的に多いのでしょうか?

北條:実はそうでもないんです。地元のおばあちゃんなどのシェアもあるので、新茶が出る5月くらいに緑茶が一気に売れます。紅茶は年間通して売上があるという感じですね。ただ、最近は緑茶より紅茶の方が売上が多いとは思います。

緑茶が好きな方には和紅茶を、和紅茶から興味を持って頂いた方には緑茶を飲んで頂けたら嬉しいです。

Q:[足久保ティーワークス]にとって日本茶とは?

北條:[足久保ティーワークス]にとって日本茶は「暮らしそのもの」です。あって当然の景色といいますか、なくてはならない日常みたいな感じですね。

なので、自分たちの代で無くなってしまいそうな危機感はあるのですが、「仕事として儲からないからやめたい」という感情は全くなく、どうやったら残っていけるのか、楽しみながら、日々試行錯誤を重ねています。

Q:日本茶を取り扱う難しさはどんなところですか?

北條:やっぱり日本茶のことを知らない方が多いというのが難しさのひとつですね。

ただ茶業界は昭和のピーク時から、30~40年経ってもあまり進化していないんです。その止まっていた時間を動かすのが僕らの役目なのかもしれません。

「日本茶」という素材止まりではなく、その素材をどう活かして、どのような形でお客様に提案するのかを考えるところまでが僕たちの使命だと思っているので、難しさではなく、おもしろさを感じています。

昔は問屋さんに売って終わりみたいな形がゴールだったとすると、いまはお客様のニーズに合わせた商品作りが求められている。なので、単純に仕事の幅が変わっただけだと考えています。

Q:足久保ティーワークスが描く将来像を教えてください。

北條 :先ほどお話しした「代々受け継いだ足久保のお茶を未来に繋いでいく」っていうのが、足久保ティーワークスのビジョンの中に大前提としてあるんです。

現状として、茶農家の経営などは厳しいものがあります。ただ、日本茶づくりを続けていくために必要なことを一つ一つやっていきたいです。数字的には、小売で今の規模の倍くらいのイメージは持っていますが、最終的な部分は決めていないですね。

最近、自家菜園やキャンプが都会を中心に全国的に流行っていますが、僕たち農家からすると、そういったものは日常のようなもので、何が楽しいのか正直わからないくらい当たり前にあるものなんです。

ただ、みんなが楽しんでやっているところを見ると、原点回帰して、農業や田舎暮らしに興味をもたれるようになってきていると感じています。

なので、これから自家菜園が好きで好きでたまらないとか、サラリーマンとして働くのは疲れたから自然の中で仕事がしたいというような人の受け皿をうまくつくることができれば、新規の就農者も増やせるんじゃないかなと思っています。

田舎にはその中にいたら気づかないですが、外に出てみて初めて気づく魅力がありますよね。そういう意味で日本茶も同じだと思っています。

茶業界の中にいるうちは意外と気づかないけれど、外から見ることで気づく日本茶の良さってものを発見して伝えていきたいですね。

代々受け継いだ足久保茶を後世にも。外から見ることでわかる日本茶の良さを発掘していく

Q:[足久保ティーワークス]としてや北條さん個人のミッションを教えてください。

北條:僕自身が日本茶に関わり始めたきっかけは、茶農家の親の背中を見て育ってきた中で、茶業界が低迷してることに対して悔しさを感じたからです。日本茶の魅力はたくさんあるけれど、そもそも日本茶自体のことを知っている人があまりにも少ない。

なので、僕らが親の代から引き継いだ日本茶の価値をしっかり伝えていく、そしてそれを仕事にしていくのがミッションですね。

お客さまに茶葉の説明をする北條さん

“日本茶”という素材をどう活かして、どんな形でお客様に伝えるのか。ここまで考えなければいけない時代だからこそ、日本茶はおもしろい。

Q:北條さんやメンバーから見ておもしろい取り組みをしている人や、ベンチマーク、ライバルはいますか?

北條:焼き菓子やスイーツ、食事とのペアリングに興味があります。日本茶との組み合わせでおいしくなるものはたくさんあるので、日本茶を販売していくヒントが隠されているのかなと思っています。

「日本茶」というのはあくまで素材であり、それを届けるサービスや販売方法、アルコールにして居酒屋さんとのコラボをしたり、スイーツにしたり、日本茶という素材を生かすも殺すも人次第だと思うんです。そういう意味で、異業種の優れた料理やプロの販売スタッフなどは普段からチェックしています。

Q:茶業界のこれからの未来はどんなふうになっていくと思いますか?また、どうなって欲しいですか?

北條:いま抹茶業界は伸びていますが、煎茶は将来的にかなり厳しいと思います。

こだわったものを作っている人は残っていくし、こだわりなくやっている人たちは厳しくなっていく一方ではないかと感じています。

日本茶を淹れるのに適切な温度や湯冷ましの仕方など、そういったことも含めて発信していける人が増えれば、茶業界の未来も変わってくると思います。

日本茶を楽しむ時間を必要とする方が増え、お茶の価値が上がり文化として定着することを目指して日々精進して行きたいです。