《茶✕輸出》ハワイと日本の良さをブレンド。世界のトレンドにあったブレンドティーで日本茶を残していく挑戦【 Yunomi.life/Ian Chun】

日本茶2000年以降、世界的な抹茶ブーム等により、お茶の輸出は約30年ぶりに増加に転じた。また国内需要の減少を受け、国策としてもお茶の輸出促進が進められた。

その結果、この20年間でお茶の輸出額は16倍に増え、200億円を超えるまでに増加した。

輸出への需要は、玉露をはじめとする高級茶と、加工用抹茶などの食品フレーバー(抹茶風味など)の原料茶に二分される。量と金額が目立つ加工用抹茶が話題になりがちななか、高級茶の輸出に地道に取り組んでいる人達もいる。

その一人が、Yunomi.lifeのイアン・チュンさんだ。大学時代から日本文学を学ぶほどの日本好きで、すでに20年以上日本に住みながら、日本茶の輸出に取り組んでいる。

Yunomi.lifeで取り扱う日本茶は、1000種類を超え、300以上の生産者・茶商から直接買い付けている。しかも取り扱うお茶の生産者・茶商の情報をウェブサイト上で公開し、それぞれのお茶の紹介も丁寧に行なっている。そのため海外の日本茶好きから、Yunomi.lifeは高い評価を受けている。

現在、量と金額が目立つ原料茶の供給は、アジアを中心とした国々でも生産が増えており、それらは日式茶(ジャパニーズスタイルティー)とも呼ばれている。これからも価格競争力のあるそういった国々の原料茶供給は増加するのは間違いない。

日本茶の価値を一言で表現することはできないが、その価値を地道に丁寧に伝えながら、広め続けているYunomi.life。その運営者である株式会社MATCHA LATTE MEDIAの代表イアン・チュンさんに話をうかがった。


Ian Chun(イアン チュン)
株式会社MATCHA LATTE MEDIA代表取締役CEO。ハワイで生まれ育ち、2001年ブラウン大学卒業。2006年上智大学大学院卒業。ブラウン大学時代に日本文学の研究で1999年に留学生として来日し、同大学卒業後、日本に移住。株式会社ワコムにて消費者向け商品のマーケティングと通販事業を担当し、2010年から日本茶業界に挑戦。小規模生産者の海外展開支援事業として会社を設立し、2013年からYunomi.lifeを運営している。

日本茶を届けた国は90カ国!

Q:イアンさんが運営する、Yunomi.lifeはどんなサービスですか?

イアン:Yunomi.lifeは世界に日本茶の生産者、農家さんを紹介しています。オンラインショップも運営しており、日本茶の輸出事業も行っています。これまでに日本茶を90の国へ届けてきました。

Q:主な輸出国と、それとは逆にちょっと珍しい輸出国はどこですか?

イアン:主な輸出先はアメリカです。珍しいところですと、フランス領リユニオン島やマヨット島、イギリスのケイマン諸島やシリー諸島、デンマーク自治領のフェロー諸島などでしょうか。

最近は中東からの問い合わせが多く、個人的にも注目している輸出先です。

Q:輸出先の国によって、反響が違ったりしますか?

イアン:基本的にはあまり輸出先の国の反響やその違いに注目はしていません。Yunomi.lifeがターゲットとしているのは「どこの国の人」ではなく、「日本茶が好きな人」。ただ日本と海外の人では「日本茶が好き」の「好き」が少し違うなと感じます。僕が感じる違いは、日本語が読めるかどうか、そして日本食文化に囲まれて育ってきたかどうか、です。

日本を象徴する文化である日本茶を発信させたい。進化させたい。

yunomi life

Q:そんな海外へお茶を輸出しているYunomi.lifeを運営しているイアンさんですが、運営するにあたってのミッションはなんだとお考えですか?

イアン:各産地の各種類・各品種のお茶を日本から全世界にお届けすることです。

Q:Yunomi.lifeで一番売れている商品を教えてください。

イアン:多分一番売れている商品は小売では鹿児島県・屋久島八万寿茶園のお茶だと思います。それと玉露芽茶も売れていますね。あ、あと鹿児島県のかりがね茶も人気です。

意外かもしれませんが、沖縄のさんぴん茶も結構売れてたりします。さんぴん茶はジャスミン茶であり、伝統的な日本茶ではないことはYunomi.lifeに記載しているものの、海外の人がちゃんとその説明文を読んでいるかどうかは謎ですね(笑)

Q:Yunomi.life一推しの商品はありますか?

OHANA BOTANICA

イアン:いま開発している「OHANA BOTANICA」のココナッツスパイスとチャイラテのミックスやこれからつくる山椒ほうじ茶ですね。山椒とジンジャーと山椒のエキスが入っているお茶をつくっています。オリジナルのブレンドティーたちが一推しです。

僕自身、結構スパイス系のお茶が好きなんですよね(笑)

Q:日本茶を海外へ多く輸出しているYumomi.lifeですが、海外のお客さんはオーガニックにこだわっていると感じますか?

イアン:日本茶のおいしさのことをよく知っている人はオーガニックにこだわっていないと思います。

Q:Yunomi.lifeにとってのベンチマークやライバル企業・サービスはありますか?

イアン:競合、類似サービスといった意味ではSazen teaneo.T.です。また直接的なライバルではないですが、TezumiKettl Tea はブランディングが上手でかっこいいなと思います。

憧れている会社は、京都の伝統工芸品を取り扱っているPOJ Studioです。

今後もかっこいいブランディング、かっこいい商品取り扱ってる会社がどんどん増えていくと多います。そういった流れの中でどういう形で勝ち抜いていくかは考えていかなければならないとも思っています。

Yunomi.lifeはいま通販しかやっていないので、実店舗をつくらなければ、今後先ほどお話ししたブランドのように成長していくのは難しいのかなとも考えています。これは僕が感じているYunomi.lifeの課題の一つです。

Q:イアンさんにとって日本茶とはどのような存在ですか。

yunomilife

イアン:日本を象徴するものの一つだと思っています。文化の一つ。僕はそんな文化を海外に発信したいし、進化させていきたいと思っています。

少し話がそれますが、もともと僕は、日本文学を学んでいました。そのとき、企業の取り組みは文化を誘導しているということに気がつきました。

例えば、Apple。今や私たちの生活の一部になっているiphoneはテクノロジーという文化を進化させましたよね。

Yunomi.lifeも海外に日本茶を提供し、日本茶の紹介だけでなく、実際に使ってみてもらうことによって生活が変わるということを実感して欲しいと思っています。

ハワイと日本の融合「OHANA BOTANICA」の挑戦

Q:いま、新しくつくっているという「OHANA BOTANICA」。これを考え始めたきっかけを教えてください。

Ian Chun

イアン:僕はもしかしたらハワイ人っぽくはないかもしれないですが(笑)

日本語も話せますし、日本に20年以上住んでいますが、やはりハワイ人なんですよね。

2020年にコロナが流行ってからハワイにしばらく帰れなくなりました。帰国することができなかった期間に自分のハワイ人としてのアイデンティティを考えていたんです。

僕は日本に住んでいる日本人のようでありながら、性格などはマイペースだったりと「やっぱりハワイ人なんだ」と思ったりもします。

日本茶のことが仕事にしてしまうくらい好きなのに、茶道をやってみたいとは今の所思ったことがありません。その理由はおそらく、「型」といわれるような規律性などが少し窮屈に感じるところにあると思っています。

勉強が好きなので、茶道についての概念などは学びました。ですが学べば学ぶほど、僕の性格上、気楽に生きていきたいと、どうしても思ってしまうんですよね。この「日本茶や日本文化は好きだがそれと同じぐらいアイデンティティとして大切にしているアロハの概念・考えかた」、これらをブランドや会社として表現していくにはどうするべきかということをコロナ禍でずっと考えていました。

そこで、日本の美意識とハワイのアロハという美意識・概念を共創させた、「OHANA BOTANICA」というブランドを作ってみようと思いました。

Q:日本茶がハワイに影響されるとどうなると思いますか?

イアン:僕の中でもまだ答えが出ていないですね。

でもハワイ人の僕だからことそ、ハワイと日本茶を融合させた本物のブレンドティーができると信じてやってみたいです。

OHANA BOTANICA

Q:「OHANA BOTANICA」でつくっているお茶の特徴を教えてください。

イアン:日本の材料を使いつつ、ハワイの要素も感じられるお茶であるということです。OHANA BOTANICAのコンセプトは「アロハ心と和暮らしの出会い」。アロハとはハワイの言葉で「温もり・愛・家族」を表現します。

僕はOHANA BOTANICAで「ブレンドティー」という考え方がまだ一般的ではない、シンプルな日本茶を「アロハ心」の明るさや温かさとブレンドさせ新たな生活スタイルを提案したいと思っています。

そのためOHANA BOTANICAでつくっているお茶はハワイを想起させるような名前をつけていますが、ブレンドティーとして使用している材料はなるべく日本のものを使っています。

例えば、「Island Breeze(島風)」これはハワイのアラモアナビーチで過ごした思い出からインスピレーションを受けつくりました。

幼い頃、アラモアナビーチへ父親と毎週遊びに行き、海辺でおやつとしてオレンジなどを食べていました。

ゆずを知ったのは日本に移住してから。とんでもない美味しい柑橘を見つけたと思い、父親が初めて来日した時に食べさせました。父親が「うまいな!」と言っていたのを思い出します。

抹茶入りゆず煎茶をつくったのですが、これも材料は全て日本で作られたもの。だけど僕にっとってゆずは父親とオレンジを食べながら過ごしたハワイのビーチを思い出させます。

もう一つ紹介すると、「KAILUA CAMPFIRE(カイルア キャンプファイアー)」。

この商品に使っている紅茶は燻製されたもの。静岡県のカネロク松本園さんの燻製紅茶の香りはハワイ・オアフ島の東海岸にある、カイルアビーチでキャンプファイアーを囲み、マシュマロを焼いて遊んでいた時のことを思い出させます。

味わいは日本茶、でも雰囲気はハワイ。そんなおもしろい日本茶の新しいスタイルを、ハワイ人の僕だからこそできると信じてこれからもブレンドティーをつくり、提案していこうと思います。

日本茶にブレンドティーという選択肢を。

Q:「OHANA BOTANICA」ではブレンドティーをつくっているという話でしたが、どうしてブレンドティーを作ろうと思ったのですか?

イアン:「日本茶をこれから先も生き残らせていくには」ということを考えた時、僕は伝統としての「守り」と変化という「攻め」が必要だと思いました。

いま海外ではブレンドティーが主流になってきているんですね。「総合的な味わいがどうなっているか」ということが重要視されています。つまり、海外視点から考えるとブレンドされた中でお茶がどういった役割、個性を出しているのかがとても重要になってきます。

IanChun

一方、日本茶は伝統的にフレーバーティーや茶葉を別の何かとブレンドするという文化がありません。そのためブレンドの技術がそもそも発展していません。

日本ではまだ日本茶のブレンドティーはあまり一般的ではないかもしれません。しかしフレーバーティーやブレンドティーが馴染みがないわけではないのです。

だからこそ、変化としての「攻め」を考えた時、海外でも主流になっているブレンドティーという選択肢が日本茶にもあればいいのにと考え、つくってみようと思いました。

何より、おもしろそうですしね。

Q:日本での消費拡大というよりは海外へ売り込んでいく、という視点でブレンドティーに挑戦されたということですか?

イアン:いえ、そうとも限りません。「OHANA BOTANICA」はどちらかというと国内向けとして考えました。もちろん海外でも通用はしますが。

日本国内では年々日本茶の消費量が落ちています。

スーパーマーケットなどでは年々、日本茶売り場の面積が小さくなり、若者は日本茶を飲まなくなっています。飲むとしてもペットボトルでの消費が多くなっていますよね。

どんどん日本人が日本茶離れを起こしているのです。

だからこそ、少しでも日本茶に興味を持ってもらえそうな形にしようと思い、「OHANA BOTANICA」、ハワイと日本の融合という斬新な形で国内向けに日本茶という文化の新しいスタイルを提案しています。

Q:今後ブレンドティーでないと日本茶の未来はないと思いますか?

IanChun

イアン:みんな新しいものが好きですよね。
今の日本茶の形だと、単一品種、つまりシングルオリジンの高級路線を好む人が残り、茶業界としては消費者の割合が少なくなっていってしまうと思います。

そうなるときにどう生き残っていくか。

国内に目を向け、ペットボトルと高級茶の間となる中間層をどう育てていくかと考えると、結局現状の市場を鑑みてもお茶ではなくコーヒーになってしまうのかなと思います。

しかし国内ではなく海外に視点を向けると、海外輸出の可能性はあるかとは思います。

ただし、現状では半分以上の需要は抹茶であり煎茶や和紅茶ではありません。

抹茶ではない日本茶を3割くらい輸出するためには海外の農薬基準を満たさなければいけなくなります。ですが、日本でその農薬基準を満たしたお茶作りをしようと思うと、中国と似たような味のお茶ができる一方で、価格は中国産のお茶の10倍以上になってしまう。

そうすると海外の方達は、もちろん日本茶ではなく中国のお茶を購入することが予想されますよね。

そう考えると海外輸出ではなく国内での消費に目を向けた方が良いのではと感じます。

だからこそ、国内消費を少しでも増やすために、僕は「OHANA BOTANICA」という形でブレンドティーに挑戦してみます。

「OHANA BOTANICA」が何かしらの影響を与えられれば、茶業界がどこかしらの方向へ、前へ進むと信じています。

Q:ブレンドティーという新たな日本茶のジャンルに挑戦されているイアンさんですが、日本茶の文化を取り扱う難しさを感じることはございますか。

イアン:商品として取り扱う難しさは海外への輸出基準・規制が厳しくなっていることですね。これが一番の課題です。

輸出規模が拡大するほど、規制が厳しくなり、発送方法やその手続きなど、考えることが多くなり複雑化します。

また、日本茶を海外へ輸出するとなると、卸先の知識が限られているので、教えなければいけないことが多くなってしまうのも難しさかもしれません。

守るだけではなく。日本茶という文化を残すために時代の変化に合わせた柔軟性をもつ

Q:茶業界におけるこれからの未来はどんなふうになっていくと思いますか。

IanChun

イアン:日本の社会自体は世界と同じように便利さを重視していると思っているんですが、その行き着く先はアメリカ国民のように健康でなくなると思います。

日本人は長生きすることで有名だと思いますが、僕は、便利さを追求すると人々は健康的ではいられなくなると思っています。なので、生活自体を昔ながら(そうでなくとも良いが)、いいものを消費することが大切だと思っています。

日本の食生活が変化していくように、日本茶も変化していく必要があると考えています。

それに合わせ、Yunomi.lifeも日本茶という文化のなかで生き残っていくためには従来の形から進化していくことが必要だと思っています。

Q:イアンさんが考える日本茶の進化の方向は?

イアン:日本茶は日本食に合いますが、ほかの国の料理に合うような変化が必要だと思います。

いま、Yunomi.lifeでつくっている「OHANA BOTANICA」はスパイシーだったりと今までの日本茶の形としてはなかった新しいブレンドティーになっています。

Q:イアンさんから見て、何かおもしろい取り組みをしている人はいますか。

イアン:静岡県の兼ロク松本園の燻製紅茶は他の日本茶とまったく違うという意味でとてもおもしろいと思います。

この30年で唯一大きく成長している会社はLUPICIAですよね。LUPICIAは店舗販売で茶葉の販売がうまくいってるのですが、この会社ほどに成功して、うまく成長できているお茶の会社はないと思います。

Q:お茶農家はどう変化していくべきだと思いますか。

イアン:小規模な農家さんはいろんなブレンドを試してほしいです。それも自分たちで育てたお茶以外の作物を使ってお茶とブレンドする。もっとお茶の生産過程でもっとさまざまな実験をしてほしいです。

また、茶業界においては、今後誰がリードしていくかというのも重要になる気がしていますね。

大きな茶商さんや問屋さんが茶業界を牽引するのではなく、お茶農家さんがリードしていくようになってほしいです。お茶の進化を農家さんが見せるようになってほしいですね。

いろんな作物を育て、自分たちでつくり出したもので実験をできるのは畑を持っている農家さんの強みです。“ホンモノ”の日本茶のブレンドティーであれば海外にも広がるのではないかと僕は考えています。

世界はいま、ブレンドティーのブームです。

日本は、日本なりのブレンドティーを農家さん主導で色々試し、生み出していって欲しいです。

All photos by Hiroki Yoshida