秋の夜長に、月を愛でる──「お月見」の楽しみ方

日本には、秋の澄んだ夜空に浮かぶ満月を愛でる「お月見」という風習があります。特に「中秋の名月」と呼ばれる満月は、美しい月を眺めながら、自然の恵みに感謝を捧げる特別な夜とされてきました。 旧暦の8月15日にあたる「十五夜」がその代表で、2025年は10月6日が十五夜にあたります。現代では新暦に合わせて、9月中旬から10月初旬のどこかでお月見を行うのが一般的です。 月に感謝し、秋の実りを喜ぶ お月見には、いくつかの意味があります。 まず、月そのものへの感謝。昔の人々にとって、月明かりは日常生活に欠かせないものであり、時間や天気の目安でもありました。月を敬い、自然の摂理に感謝する心がこの風習の原点です。 次に、豊かな収穫への感謝と、来年の実りへの祈り。稲をはじめとする作物の収穫期にあたるこの時期は、収穫祭としての意味合いも色濃く残っています。 そして最後に、純粋に月の美しさを楽しむということ。古来より、日本人は月の光に心を寄せ、多くの和歌や物語にその情景を詠み込んできました。 中国から伝わり、平安貴族の「月見の宴」へ お月見の起源は、中国・唐の時代にさかのぼります。日本には平安時代に伝わり、貴族たちの間で月を愛でる「月見の宴」が盛んに行われました。 音楽を奏で、和歌を詠み、酒を酌み交わす──その優雅な風習は『源氏物語』などの古典文学にも描かれています。 時代が下るにつれ、月見の風習は庶民にも広がり、江戸時代には舟の上から月を眺める「船遊び月見」なども楽しまれるようになりました。風流と自然を愛する日本人らしい文化が、今なお各地に息づいています。 京都では、寺院での月見茶会も 京都では現在も、お月見の伝統を大切に守っています。秋になると、寺院などで「観月会」や「月見茶会」が開かれ、月とともにお茶や雅楽を楽しむことができます。静かな庭園とともに、月を眺めながらお抹茶をいただく時間は、まさに日本文化の粋といえるでしょう。 月見団子と「芋名月」 お月見といえば、やはり欠かせないのが「月見団子」です。丸くて白い団子を三方に盛り、ススキを添えて月に供える光景は、秋の風物詩のひとつですね。 実はこの団子にも地域差があります。東日本ではシンプルな丸い団子が主流ですが、関西では小芋の形をした団子にあんこを包んだものも見られます。これはかつて、団子ではなく里芋を供える風習があったことに由来し、「芋名月(いもめいげつ)」という別名にもつながっています。 月のうさぎとススキの意味 お月見にまつわるもう一つの可愛らしい要素が、「月のうさぎ」です。日本では、満月の模様がうさぎが餅をついている姿に見えるとされ、月見団子やススキと一緒に飾られることが多いですね。 ススキは、収穫前の稲穂の代わりに供えられるもので、豊作や子孫繁栄を祈る意味も込められています。神様の依り代としての役割もある、自然への敬意を表す大切な存在です。 自宅でも楽しめる「お月見」のすすめ 今年の十五夜には、ぜひ自宅でもお月見を楽しんでみてはいかがでしょうか。 お気に入りのお茶を淹れ、手作りの月見団子を並べて、静かな夜にゆっくりと月を眺める。それだけで、いつもの日常が少しだけ贅沢な時間に変わるはずです。 […]

京の七夕の楽しみ方

七夕といえば、笹に短冊を飾る風景を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。 神社や商店街はもちろん、学校や地域の施設など、身近な場所でも七夕の飾りつけを見ることができます。 多くの小学校では、子どもたちが思い思いの願いごとを短冊に書き、星をテーマにした工作を作ったりと、楽しい行事のひとつになっています。 給食にも「七夕ゼリー」など、星形のカラフルなデザートが登場し、季節感をたっぷり感じられる工夫がいっぱいです。 七夕は7月だけじゃない? 一般的に七夕は7月7日に祝われますが、京都や一部の地域では、旧暦にあたる8月にも七夕行事が行われます。 実は私も、九州にいた頃はそんな風習があることをまったく知りませんでした。京都に住むようになってから、夏の間に2回も七夕を楽しめることを知り、ちょっと得した気分になったのを覚えています。 美しすぎる「七夕スイーツ」 京都の七夕を語るうえで欠かせないのが、季節限定の和菓子たち。 中でも「七夕羊羹(たなばたようかん)」は、見た目も味も格別です。天の川をイメージした美しい層や、星形のモチーフをあしらった羊羹は、目にも涼やかで、まさに食べる芸術品のよう。 7月と8月の七夕シーズンには、京都各地で茶会や茶道のお席が開かれ、こうした七夕限定の和菓子が抹茶とともに振る舞われます。 星に願いを、心にひとやすみを もし7月や8月に京都を訪れることがあれば、ぜひ七夕ならではの和菓子や、趣のある茶会をのぞいてみてください。 美しく丁寧に作られた季節の味わいとともに、静かに喫する時間は、忙しい日常にそっと彩りを添えてくれるはずです。 …そういえば、織姫と彦星も、愛と仕事のバランスを取るのに苦労していたようです。 あなたも、仕事や育児に少し頑張りすぎていませんか? 自分時間はとれていますか? 今だけのお菓子を口実に、たまにはお茶と甘味で、心にちょっとした「七夕の休憩時間」をつくってみてはいかがでしょう。  

「水無月(みなづき)」に込められた京都の夏の味わい

「水無月(みなづき)」という言葉は6月の月名ですが、梅雨の真っ只中なのになぜ「水の無い月」というのか、考えたことはありますか? これは、古語の文法に由来しています。「無」は否定ではなく、「の」にあたる助詞として使われていたため、「水無月」は本来「水の月」という意味なんです。 とはいえ、雨が多い季節に「水が無い月」と書かれているのは、少し不思議に感じますよね。 京都で「水無月」と言えば、もうひとつ特別な意味があります。 京都で育った方にとっては、6月になると自然と頭に浮かぶ、ある和菓子の名前でもあるんです。とくに、6月30日に欠かせない甘味として親しまれています。 私は九州出身で、京都に来るまでこの「水無月」というお菓子の存在を知りませんでした。 でも、こちらではすっかり初夏の風物詩。ういろう生地を三角形に切り、上に甘く煮た小豆をのせた、涼しげでやさしい味わいの和菓子です。もっちりした食感と透明感のある見た目が、蒸し暑い季節にぴったりなんですよ。 実はこのお菓子、もともとは「氷」の代わりとして作られたものだそうです。 昔は「氷室(ひむろ)」という貯蔵庫に冬の間にできた氷を保存し、6月30日に宮中へ献上する「氷の節句」という行事がありました。ただし、冷蔵庫などがなかった時代、庶民が氷を口にするのはなかなか難しいこと。 そこで氷のかけらを模したこの和菓子が生まれたのです。三角形は氷片を、小豆は厄除けの力があるとされ、無病息災を願う意味が込められています。 また、同じ6月30日には「夏越の祓(なごしのはらえ)」という神道の行事も各地の神社で行われます。 茅(ちがや)で作られた大きな輪を、和歌を唱えながら左回り、右回り、左回りと八の字を書くように3度くぐります。半年分の穢れを祓い、残りの半年の健康と幸せを祈る儀式です。この日に水無月をいただくことで、さらに厄を落とし、元気に夏を乗り切れると信じられています。 京都の和菓子店では、水無月を6月30日だけ限定で販売するところもあり、当日は朝から行列ができることも。 毎年「どのお店の水無月にしようかな」と楽しみにしている方も多いんです。 茶道のお席でも、6月にはこの水無月がよく登場します。ほんのり甘く、さっぱりとした口当たりが、点てたばかりの抹茶によく合います。 もし6月に京都を訪れる機会があれば、ぜひ「水無月」を探してみてください。静かにお茶とともに味わいながら、日本の夏の美しい伝統を感じてみてはいかがでしょうか。

こどもの日に柏餅を食べる意味をご存知ですか?

一枚の葉っぱに込められた願いと、お茶との美味しい関係 5月のはじめ、和菓子屋さんに並ぶ大きな葉っぱに包まれた可愛らしいお餅、 「柏餅(かしわもち)」をご存知ですよね。 でも、なぜこの時期だけ食べるのか、柏の葉にはどんな意味があるのか、 意外と知らない方も多いのではないでしょうか? 柏餅は、5月5日の「こどもの日」に欠かせない伝統菓子です。 中にはこしあんやつぶあんなどの甘い餡が入り、もちもちとした食感が魅力。 実はこのお餅、ただの季節限定スイーツではなく、日本ならではの「家族への願い」が込められたお菓子なんです。 柏の葉は“食べられない”けど、大事な意味がある 柏餅の特徴である「柏の葉」は、食べられるものではありませんが、象徴として大切な役割を果たしています。 柏の木は、新しい葉が出るまで古い葉が落ちないことから、 「家系が絶えない」「子孫繁栄」という意味合いが込められています。 そのため、柏餅を食べることは、子どもたちの健やかな成長と、家族の繁栄を願う行為なのです。 柏餅と一緒に、お茶でほっとひと息 柏餅のお供には、やっぱり日本茶がぴったり。 特におすすめは、ほんのり渋みのある煎茶や番茶。 お餅の甘さとお茶の爽やかさが絶妙なバランスです。 今回合わせたのは、大分県産の「釜炒り茶」。 番茶の一種で、軽やかな渋みが特徴の、日常使いしやすいお茶です。 もちろん、抹茶とも相性抜群!ぜひお好みの組み合わせを見つけてみてください。 こどもの日ってどんな日? 5月5日は「こどもの日」として知られていますが、もともとは「端午の節句」という、 […]

桜餅には2種類あるのをご存知ですか?

春の和菓子といえば、桜餅。 甘いあんこと塩漬けされた桜の葉がいい塩梅で美味しいですよね。 桜餅というと、少し楕円型で、丸いピンクのぶつぶつした表面の餅に、桜の葉が巻かれているものをイメージしますが、 どうでしょうか。 もう一つ違う形の「桜餅」を見たことはありますか? 実は桜餅には2種類の形があるそうです。 まず、西日本(大阪・京都など)で一般的なのが「道明寺(どうみょうじ)桜餅」。 蒸して乾燥させたもち米を粗くひいた“道明寺粉”を使い、粒感の残るもちもち食感が特徴。ほんのり丸く平たい形に成形され、中には甘いあんこが詰まっていますね。 私は桜餅といえばこれですが、皆さんはどうでしょうか? 「道明寺」という名前は、大阪にある道明寺というお寺に由来しています。 もともとは保存食や武士の携帯食として使われていた道明寺粉が、 やがて和菓子にも使われるようになったそうです。 一方、東日本(特に東京)で親しまれているのが「長命寺(ちょうめいじ)風」の桜餅。 こちらは小麦粉で作ったクレープのような薄い生地であんこを巻いた、しっとりやわらかなタイプ。見た目も食感もまったく異なります。 長命寺風の桜餅は、東京スカイツリーの近く、長命寺というお寺のそばにあった「山本や」というお店が発祥とされています。桜餅自体は、江戸時代、門番をしていた男性が長命寺境内に落ちた桜の葉を塩漬けにして餅を包んでみたことから誕生したそう。 どちらの桜餅にも共通しているのが、あの塩漬けの桜の葉。甘さと塩気のバランスが絶妙で、桜餅のおいしさを引き立ててくれます。 でも気になるのが、「葉っぱ、食べる?食べない?」問題。香りや食感が好きで食べる人もいれば、風味だけ楽しんで葉ははがす人も。 どちらが正解ということはなく、自分の好みで楽しめばOK! 道明寺桜餅は全国的に見かけますが、長命寺風は限られた場所でしか出会えません。 もし見つけたら、ぜひ試してみてください。(写真のものは、珍しく京都「鼓月(こげつ)」で見つけたものです。) 香り豊かな煎茶や釜炒り茶と一緒に味わうのも、春ならではの素敵な楽しみ方です🌸😊