《茶✕実・油》目指せ!オリーブオイル。全国に広がる放棄茶園は宝(茶の実)の山。茶の実油の普及で放棄茶園は復活する。【日本 茶の実油協会/地藤久美子】

お茶の生産量が減少し、茶畑も減っている。全国の茶園面積は、史上最大の6.1万ha(1983年)から3.7万ha(2022年)へと、この40年で3分の2になった。減少した2.4万haの茶畑は統計上の減少であって、消失したり、茶の木が枯れてしまったわけではない。大半は、生産のために管理されなくなったので、統計から外されただけだ。こういった茶畑は、放棄茶園または荒廃茶園と呼ばれ、そこには樹高2〜3mの茶の木が鬱蒼と茂っている。こういった放棄茶園には、秋になると茶の花が咲き、茶の実がびっしりとなる。そしてお茶はツバキ科の植物で、ツバキ同様にタネから油を絞ることができる。放棄茶園が全国の茶産地に広がっている今、この茶の実油に注目する人たちが増えている。まだまだ少数だが、茶の実油の商品も登場し始めている。そして2016年、日本茶の実油協会も組織され、これまで全国各地で個別に茶の実油に注目し、孤独に情熱を傾け、研究していた人たちが集まりつつある。また、まだまだ少ないながらも茶の実油に関する研究結果もあり、茶の実油にはツバキ油と同等のオレイン酸とリノール酸が含まれることも分かってきた。これから確実に増える放棄茶園とまだまだ発展途上の茶の実油の世界。茶の実油の可能性を日本茶の実油協会代表理事 地藤久美子さんにお話をうかがった。 地藤久美子(じとう くみこ) 茶の実を見つけた時の感動が忘れられずに早8年。全国で茶の実を集めている人と繋がり、協会を運営し、油を使ったバウムクリーム作りのイベントを開催。毎年秋は、ホームグラウンドである滋賀の茶畑が私を呼んでいる!と勇んで畑へ。一度行くと時間を忘れて収穫してしまうほどの茶の実好き。 目次1 知られざる「茶の実油」の可能性を探りたい2 茶の実を拾うのが楽しくて楽しくて、このために生まれてきたのかも?3 茶の実油への情熱が沸騰しすぎて、蒸発している可能性があります(笑) 知られざる「茶の実油」の可能性を探りたい Q:「日本茶の実油協会」について教えてください。 地藤:2017年に活動をスタートした任意団体です。 日本茶の実油協会のみなさま結成のきっかけは2016年6月に東京・高円寺で開催された茶の実油のイベントでした。その会を主催されていた、株式会社緑門の下山田さんにご挨拶をし、「私も茶の実を拾いたいと思っているんです」とお伝えしたところ、「茶の実に興味がある人を何人か知っているから、一度集まりましょうか」という話になったのです。 そして同年秋には15人ほどが集まり、「第1回サミット」と称した、ただの飲み会を開催しました。続いて2017年12月に第2回サミットを名古屋でして、今回は勉強会を開催しました。第3回は2018年11月に滋賀県の信楽で、茶の実を拾ったり茶の実油を絞ったりするイベントを開催しました。 Q:メンバーたちは全国いろいろなところで活動しているんですか? 滋賀県で行われた第3回茶の実油サミット地藤:そうですね。佐賀県、滋賀県、奈良県、京都府……各地にメンバーがいます。 なかには、インドに住んでいたときに茶の実に興味を持ち、帰国後は東京と佐賀を行き来しつつ、嬉野の茶畑で茶の実を拾っているというユニークなメンバーもいます。彼は2023年の秋には300キロほどの茶の実を収穫しました。 Q:茶農家なら誰しも「茶の実を活用できたらいいのに」と考えたことがあるように思います。それなのに、これまで茶の実がビジネスになってこなかったのはなぜでしょうか。その背景にどのような難しさがあるのか、お聞かせください。 地藤:やはり茶の実油の搾油率が10%とかなり低いことでしょうか。先述したメンバーの例でいうと、茶の実を300キロ収穫しても、乾かすと150キロになり、茶の実油にするとわずか15キロになってしまいます。効率がよくないので、やはりみなさんなかなか手を出せませんよね。 それと、収穫タイミングの問題もあります。一番いいのは、茶の実が熟して、割れそうになっているタイミング。実が割れそうになってから落ちるまで1週間ほどあるので、その間に枝を落として収穫するのが効率的です。 拾った茶の実たちいったん実が落ちてしまうと、地面を這いつくばって実を探すしかなく、手間がかかります。私は地面に落ちている実を探すのが、宝探しのようで好きなんですけどね。毎年、収穫の時期になると、毎日のように茶畑に通って2キロ程度ずつ収穫します。茶の実油にするとわずか100グラム程度に減ってしまう量ですが、収穫が楽しいからそれでいいんです。 また、茶の実油を取り扱う難しさで言うと、利用方法がまだ確立されておらず、商品が生まれないため、消費者がその存在を知らないことでしょう。需要が少ない分、商品化しても割高になってしまう。そこが問題だと思います。 […]

《茶✕サブスク》月額500円で体験できる3種のお茶で毎月ひろがるお茶の輪郭線。【TOKYO TEA JOURNAL/谷本幹人】

ネット決済の少額化・低コスト化が進み、サブスクリプション(定期購入・定額課金)が様々な業種に広まった。お茶は、かさばらず、軽く、常温で配送でき、賞味期限も長く、リピート性の高い商品であるため、サブスクリプションとの相性がすこぶる良く、導入事例も多い。しかしその反面、導入してもサービスを継続できない、または拡大しない事例も散見される。そのような状況の中、快走を続けるのが、日本初の「観て飲む」お茶のサブスクリプションサービス「TOKYO TEA JOURNAL」だ。「TOKYO TEA JOURNAL」は、月額500円で3種類のお茶と16ページの情報誌が届くサブスクリプションサービスだ。「お茶が好きだけど、選び方が分からない」「ゆったりしたお茶時間を過ごしたい」「お茶に関わるいろんなことを知りたい」「お得に、お茶を楽しみたい」という方へ高い体験価値を届けている「TOKYO TEA JOURNAL」。月額800円(本体500円+送料300円)という手軽さで質の高い体験価値を提供し続けているその裏側を、今回はクリエイティブデザイナーの谷本さんにうかがった。 谷本幹人(たにもと みきと) UCY ALTER DESIGN/green brewing 取締役 兼 クリエイティブディレクター。世界初のハンドドリップ日本茶専門店「東京茶寮」、シングルオリジン煎茶専門店「煎茶堂東京」、焙煎温度別ティージェラートカフェ「MARUZEN Tea Roastery」などを手掛ける。 目次1 サブスクで「いろいろなお茶を楽しみたい」を毎月かなえる2 ものではなく体験を。16ページの冊子を茶葉に同封する理由3 あえて限定することで、よりクリエイティブになれる4 […]

《茶✕エンタメ》抹茶ラテアートで、お茶文化にライブ感とエンタメ性を。お茶をもっとみんなのものに。【抽出舎/小山和裕】

「茶文化」というと、妙に重みを感じるのは、なぜか?「コーヒー文化」や「酒文化」とは、なにかちがう歴史の重みを「茶文化」という言葉は秘めている。この重みがお茶に魅力を与え、お茶を遠ざける一因でもあるだろう。今回ご紹介する小山和裕さんが実践する「茶文化」は、歴史の重みに鎮められた「茶文化」ではなく、ライブ感あふれるエンターテイメント性に富んだ「茶文化」だ。それが日本唯一の抹茶ラテアート大会「Japan Matcha Latte Art Competition(ジャパン マッチャラテアート コンペティション:以下、抹茶ラテアート大会)」である。日本唯一の抹茶ラテアート大会を運営している株式会社抽出舎の代表である小山さんは「生活の中に豊かさの選択肢をつくる」をミッションとし人々が日本茶との接点をより多く持てるよう、布石を打ってきた。 この大会の他にも東京・西荻窪では日本茶スタンド「Satén japanese tea」や日本茶情報メディア「Re:leaf Record」、日本茶業界の求人サイト「Re:leaf JOBs」など、日本茶に関する様々な事業を多角的に展開している。どうして日本茶との接点を一つでも多く作るのか、どうして「Japan Matcha Latte Art Competition」というあえて日本茶を取り入れた大会を運営するようになったのか。小山さんが考える戦略とはいかなるモノなのか。お話をうかがった。 小山和裕(こやま かずひろ) 株式会社抽出舎 CEO。日本茶スタンド『Satén japanese tea』オーナー茶リスタ。日本茶メディア『Re:leaf […]

《茶✕デザート》一日12名限定。お茶のデザートを五感で味わう感動体験に昇華させるカウンターデザート専門店。【VERT/田中俊大】

2000年代初頭の世界的な抹茶ブーム以降、今や抹茶アイスクリームや抹茶ラテ、ほうじ茶チョコなど、お茶はスイーツの風味(フレーバー)として定着した。それまで抹茶の生産は、京都・宇治と愛知・西尾に限られていたが、この20年で全国に広がり、2021年には、てん茶(抹茶の原料茶葉)の生産量は、鹿児島が京都を抜いて日本一となった。世界でもタイや中国で抹茶などの日本のお茶(日式茶)の生産が増えており、そういったお茶がフレーバーとして海外で使われるケースも増えている。今やお茶は、飲み物として以上に、フレーバーとして食べ物となり、生産も消費も世界じゅうに広がっている。一方、スイーツ全般のトレンドとして最近、デザートコース(スイーツコース)が人気だ。これはデザート数品で構成されたデザートのみが提供されるコースのことで、このデザートコースだけのカウンターデザート専門店も増えている。デザートコースで提供されるのは、食後の別腹のためのスイーツではない。盛り付けられたデザート一品一品を芸術として鑑賞し、五感で体験しながら、食する。そして、この2つの流れの合流点にあるのが、東京・神楽坂にあるVERT(ヴェール)だ。ここでは、日本茶を織り交ぜたデザートコースが体験できる。VERTのオーナーパティシエ田中さんが目の前で一皿ずつ創る旬の食材とお茶でつくるデザートは、食材としてのお茶の可能性を別次元に引き上げる。日本茶に魅了され、学び、創り、その可能性を発信し続けている田中さんにお話をうかがった。 田中俊大(たなか としひろ) 東京・神楽坂にある日本茶を織り交ぜたデザート専門店「VERT」のオーナーシェフ。都内パティスリーにて修行後、「janicewong dessert bar」にてスーシェフ、「jean georges tokyo」にてシェフパティシエ、「L’atelier à ma façon」 にてエグゼクティブシェフとして勤務。5年前に日本茶に出会い、2022年にVERTをオープン。日本茶の可能性をデザートを通じて発信している。 目次1 一日12名限定。日本茶を織り交ぜたデザート専門店[VERT]2 人、文化、様々なものをありのままに受け入れ、茶をもってもてなす「茶湊流水(ちゃそうりゅうすい)」3 自然界と共生し、お茶をつくるお茶農家に最大のリスペクトを。魅力を引き出し、伝えるのはパティシエである僕の役目。4 「俺、VERTにお茶を卸してんだよ。」目指す先はお世話になっているお茶農家さんが胸を張れる店。 一日12名限定。日本茶を織り交ぜたデザート専門店[VERT] Q:[VERT(ヴェール)]はどんなお店ですか。 田中:日本茶を織り交ぜたデザート専門店です。 店内は、カウンター6席のみで一日12名様を限定で、「茶湊流水(ちゃそうりゅうすい)」のみを提供しています。 僕は、[VERT]がお客さんにとって、日本茶に対して「飲む」以外の可能性を少しでも感じ、見つけてもらえるようなお店でありたいと思っています。「茶湊流水」を体験していただくことで、日本茶の可能性を1ミリでも感じていただきたい。 […]

《茶✕ボトル》300円で3回も!フィルターインボトルを活用した朝しか買えない「朝ボトル」【mirume深緑茶房/松本壮真】

お茶は液体。飲むためには容器がいる。1990年、ペットボトル茶の発明から30年以上にわたり、ボトル入りのお茶の革新が続いている。それまでのお茶は、茶の間に座り、急須と茶碗で飲むものだった。しかしペットボトルの登場により、すぐにどこでもお茶が飲めるようになった。ペットボトル茶の革新は、ボトルでお茶を飲むことを当たり前にし、2007年にはワインボトル入りの高級茶、2012年にはボトル内で茶葉を抽出するフィルターインボトルが発売され、ボトルのお茶の幅がさらに広がった。そして、今回ご紹介するmirume深緑茶房では、ボトルのお茶を活用した新サービス「朝ボトル」を提供している。「朝ボトル」は、平日朝8〜10時、店先を通勤・通学する顧客に、フィルターインボトルの淹れたてのお茶を提供し、帰宅時に飲み終わったボトルを店舗へ戻してもらうというサービスだ。これにより、ボトルのお茶にも関わらず、淹れたてのフレッシュな香りと味わいを楽しむことができ、使い捨てペットボトルのゴミ問題も発生しない。また一度飲みきっても3回まで水を注ぎ直して飲める。店舗側にとってもお客様の来店頻度を上げることができるのもメリットだ。今回フィルターインボトルを活用し、新たなボトル茶の可能性を切り拓いたmirume深緑茶房の松本壮真さんにお話をうかがった。 松本壮真(まつもと そうま) 日本茶専門店「mirume」の店主、日本茶農家3代目で日本茶インストラクターです。日本茶農家に生まれ『次の世代に日本茶を繋いでいきたい』と考える一方で、60代以上が約60%の消費量を担う日本茶業界に危機感を抱いています。 「mirume」とは日本茶業界の言葉で「若い芽」「上質な芽」を指します。名古屋市の那古野で、品質の高い日本茶を幅広い世代に楽しんでいただけるお店づくりに努めています。 目次1 購入できるのは朝8時〜10時!朝買って夕方に返却する、ユニークなサービス「朝ボトル」2 日本茶ビギナーさんにも届けたい、日本茶のおもしろさ3 日本茶は、家族のような存在。だからこそ挑戦したい。三代目の決意4 日本茶の難しさはおもしろさとの表裏一体!楽しく、カジュアルに楽しむ選択肢を増やしたい。 購入できるのは朝8時〜10時!朝買って夕方に返却する、ユニークなサービス「朝ボトル」 Q:[mirume深緑茶房]朝ボトルのサービスについて教えてください。 フィルターインボトルをまるまる1本レンタルすることができる 松本:朝ボトルは本格的な日本茶のテイクアウトサービスです。 朝の8時〜10時の時間帯だけ、茶葉と水が入ったフィルターインボトルを1本300円でレンタルという形で販売しています。そしてフィルターインボトルは、夕方に返却していただいています。 Q:朝ボトルの日本茶はお水を継ぎ足せば何度でも飲めるのでしょうか? 松本:そうですね。お水がなくなったら継ぎ足していただき、3回くらいは飲めますね。 Q:フィルターインボトルが返却されない、なんてことはないのでしょうか? ありがたいことに、ほぼ100%返却していただけています。でもテレビなどのメディアに出演したりすると、下手すると1/4くらい返却されないことはありました(笑) 基本的には通勤客の方が購入してくれる方が多いのですが、毎日通勤で店の横を通るからこそ、返却率が高いのではないかなと思っています。 Q:「朝ボトル」はやはり朝にボトルを売るから朝ボトルという名前に? 松本:じつは、当初は「ボトルパス」という名前でサービスを展開しようと思っていました。 […]

《茶✕ロボティクス》農業の機械化、ロボティクスでお茶の生産現場はどう進化する?スマート農業の最先端【堀口製茶/堀口大輔】

現在、全世界で生産されるお茶は600万トン以上。この10年、毎年10万トンずつ増加している。そのうち日本で生産されるお茶は約7万トン。つまり日本茶は、世界のお茶の生産量のわずか1%程度だ。わずか1%だが、日本には他国に類をみない茶道や煎茶道といった茶文化、急須や湯沸かしポットといった茶器がある。そのような日本だけで培われ、高められた発明や革新、文化は、お茶の生産現場にもある。その一つが、お茶の収穫で活躍する乗用摘採機だ。この100年の間に日本でのお茶の収穫は、手摘み、手鋏(てばさみ)、可搬式摘採機、そして乗用摘採機へと変化してきた。世界では未だに手摘みが主流の中、1980年代後半より日本では乗用摘採機が収穫の主役へと移行し、収穫の効率は手摘みの数百倍になっている。今やスマホが一人ひとりの手にあり、ドローンが飛び、自動運転のクルマも目前となっている中、農業機械はどのように進化していくのだろうか?鹿児島県志布志市で、国内最大級の茶園面積を管理する堀口製茶では、かつてより茶生産の現場での機械化に取り組んできた。自社開発の機械だけでなく、国の研究機関等とも協力し、収穫ロボットとも言える無人摘採機の研究にも参画している。今回は、茶✕ロボティクスの最前線にいる、堀口製茶代表取締役・堀口大輔さんにお話を伺った。 堀口大輔(ほりぐち だいすけ) 鹿児島堀口製茶 代表取締役社長/和香園 代表取締役社長1982年鹿児島県志布志市生まれ。大学卒業後、静岡県でお茶メーカーに入社。4年間従事し2010年4月帰郷し、父親が社長を務める鹿児島堀口製茶/和香園に入社。2018年7月、同社代表取締役副社長および和香園代表取締役社長に就任。日本茶インストラクターの資格を持つ。茶畑面積は300ha(うち自社管理茶園120ha)。 目次1 日本の茶業を最前線で牽引する堀口製茶とは。2 堀口製茶の精鋭部隊「茶畑戦隊 茶レンジャー」。生まれたきっかけはサステイナブルなお茶づくり3 「スマート農業の発展に茶業界の貢献を残したい」。次世代農業に積極的に挑戦する堀口製茶4 お茶の楽しみ方は無限大。つくり、伝え、裾野を広げていきたい。 日本の茶業を最前線で牽引する堀口製茶とは。 Q:堀口製茶の事業内容について教えてください。 弊社は、生葉の生産から仕上げ加工(二次加工)までを行う堀口製茶と、仕上げた茶葉を卸・小売販売する和香園があります。 和香園は、鹿児島県内5ヶ所の実店舗とオンラインショップがあります。 そのほかに[創作茶膳レストラン 茶音の蔵(さおんのくら)]と「お茶農家が提案する、新しいお茶の文化」をコンセプトにした茶空間[大隅茶全(おおすみさぜん)]があります。 その他にも自社の茶葉を使ったコンセプトブランド「TEAET(ティーエット)」やシングルオリジンに特化した「カクホリ」もあります。 いかに広大な茶畑と大きな工場があるかがよくわかる堀口製茶としての工場受入面積は300haあり、300haの茶園面積のうち、120haは自社で管理し、残りの180haは42軒の系列農家さんが管理してくださっています。 系列農家さんの形は大きく分けて2つあり、生葉農家として、生葉を弊社の荒茶工場に持ってきてくださる場合と、ご自身の茶工場で製造もしつつ、私たちの工場へも生葉を持ってきてくださる場合の2つがあります。 最近の厳しい市況により、ここ数年、自社工場での製造をやめて、生産した生葉を全量持ってくるという選択肢を取られている農家さんもいらっしゃれば、引き続き、自分たちの工場をやりつつも、弊社に生葉を持ってくるというハイブリッドな選択肢をとっている農家さんもいらっしゃいます。堀口製茶では、系列農家さんのニーズに合わせてできる限り対応しています。 […]

《茶✕産地》茶業衰退で茶産地は消滅するのか?在来7割、乗用摘採機ゼロ台、完全無農薬の茶産地の今と未来。【[政所茶縁の会][茶縁むすび]/山形蓮】

上の写真を見て、茶畑だと分かる人は、きっと少ないだろう。約百年前、機械化が進む以前の茶畑はこのような風景だった。茶の収穫が茶娘たちの手摘みだけだった頃、茶畑は今のような緑のストライプではなく、このような風景だった。 そして今もこの風景に新芽がめぶく茶産地がある。滋賀県東近江市の政所(まんどころ)だ。約600年前には茶栽培が始まり、今も百年以上前の茶畑の風景が守られている。かつて「宇治は茶所(ちゃどころ)、茶は政所(まんどころ)」と茶摘み唄にも歌われた古くからの銘茶の産地だ。 政所のこの風景が守られた背景は、幾重にも折り重なっているが、在来種7割、乗用摘採機ゼロ台、完全無農薬、化学肥料ゼロ、全員兼業農家など、他の茶産地にはないキーワードがたくさんある。 政所は、戦後から現在までつづく「経済合理性の追求」、具体的には、品質向上のための在来種からやぶきたへの改植、収量アップのための農薬・化学肥料の導入、効率化のための乗用摘採機の導入といったことを産地としてやってこなかった。 そして今も約60軒の兼業茶農家が2.5ヘクタールの茶畑で玉露を含む昔ながらの茶作りを続けている。 原風景ともいえる政所に広がる茶畑は「発展と拡大だけがあるべき未来なのか?」という問いに、静かに答えてくれる。政所に移住し、10年以上、政所茶にたずさわる山形さんにお話をうかがった。 山形蓮(やまがた れん) 1986年生まれ。非農家出身、元日本茶嫌い。2012年に滋賀県立大学のフィールドワークで偶然「政所(まんどころ)茶」と出会い、作り手の思いに惚れ、素人ながら仲間たちと茶畑を借りて産地に通い、一からお茶づくりを学ぶ。2014年に東近江市地域おこし協力隊第1号として移住し、政所茶の生産・加工・販売に加え、産地をPRするツアーやイベントの実施やコラボ商品の開発なども行う。政所茶生産振興会理事、政所茶縁の会代表、茶縁むすび代表。 目次1 銘茶の産地・政所を守る[政所茶縁の会]2 この10年で変化したのは「関係人口の増加」。その背景にあるものとは3 今の時代に原点回帰した理由。作り手のプライドが守ったもの4 「こんな在り方」「こんな残り方」ありだよね。そう思ってもらえるロールモデル産地を目指して。 銘茶の産地・政所を守る[政所茶縁の会] Q:[政所茶縁の会]とはどのような組織ですか? 政所茶縁の会メインメンバーの皆様(中心に立っているのが山形さん) 山形:県内に在住する30代の女性有志のメンバーがつくっている任意のチームです。メンバーに公務員の人がいたりする関係で営利活動はあまりできてはいないのですが、産地や茶畑を守ることを行っています。 また、私が代表をつとめている[政所茶縁の会]同様、私が個人事業主として事業をしているのが[茶縁むすび]です。[茶縁むすび]では政所茶をつくったり販売する他、ツアーや体験イベントなど産地のファンを増やす取り組みも行っています。 Q:山形さんの思うミッションを教えてください。 山形:政所茶の風景が、私たちの次の世代にも目に見える形で残るために今できることをする、でしょうか。 Q:[政所茶縁の会]活動する一番の魅力を教えてください。 […]

《茶✕新規就農・6次化+α》茶畑から茶室まで、産業から文化まで背負って立つ大志と行動。カルチャープレナーが進める茶業界と茶文化の再起動。【TeaRoom CEO / 岩本涼】

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「ピカソとゴッホ」 この偉大な芸術家の二人は、対照的だ。 ゴッホは生涯で2000点もの作品を残したが、生前に売れた絵は、たった一枚。その価格は400フラン(現在価格に換算して十数万円)、一生貧乏だった。対してピカソは15万点以上の作品を残し、芸術家として経済的にも成功し、晩年には7500億円以上の資産を築いた。 この逸話は、芸術と経済、バリューとマネタイズの文脈でよく引き合いに出される話だ。 需要拡大が叫ばれる茶業界は、生産の現場から茶室に至るまで、業界全体がゴッホとピカソの話のように、その価値(バリュー)が十分に換価(マネタイズ)されない状況が続いている。 つまり、茶畑から茶道に至るまでの茶業界全体、ひいては日本文化全体が「価値の塊」なのに、換価されぬまま、「武士は食わねど高楊枝」を続けている。 このような現状を憂い、立ち上がったのが株式会社TeaRoom代表取締役の岩本涼さんだ。岩本さんは、9歳で茶道に魅了され、大学在学中の2018年、お茶で起業。現在、東京に拠点を持ち、静岡に茶畑と製茶工場、京都・金沢などにも活動拠点を広げ、世界を飛び回る。 茶畑→茶室、茶生産→茶文化に至るすべてを統合して担う岩本さんたちの活動は、現在の茶業界全体、日本文化全体が抱える価値(バリュー)を十分に換価(マネタイズ)できない暗闇に輝く太陽だ。 岩本さんたちの大志と思考と行動は、常人の理解をはるかに超えており、正直難解だ。しかしその大志と思考が徐々に形となり、岩本さんたちへの期待と評価も高まっている。カルチャープレナー(文化起業家:カルチャーとアントレプレナーを掛け合わせた造語)として、今日も世界を飛び回る岩本さんにお話をうかがった。 岩本涼(いわもと りょう) 1997年生まれ。茶道裏千家にて岩本宗涼(準教授)を拝命。21歳で株式会社TeaRoomを創業。静岡県に日本茶工場を承継し、第一次産業へも参入。「Forbes 30 Under 30 Asia 2023」選出、株式会社中川政七商店の社外取締役、一般社団法人文化資本研究所代表理事。 目次1 「人々が豊かに生きるために蓄積してきたもの」を体験するためのツールの一つ、それが茶道であり茶室である。2 文化と産業の対立・境界をなくし、新しく・豊かな社会をつくる3 社会課題化“されていない”ということに違和感をもつということ4 茶業界の未来に必要なのは「社会からの評価、そして投資したいと思わせる環境づくり」5 […]